〈特集〉JMS2025(3)最新技術が支える未来の輸送網

10月30日から11月9日にかけて、東京ビッグサイトで開催された「ジャパンモビリティショー」(JMS)。

個性豊かなコンセプトカーや新型EVなど最新の乗用車が注目されがちですが、乗用車と同様に、あるいはそれ以上に技術革新が進む商用車からも目が離せません。

現地での取材をもとに、モビリティの未来を考える「〈特集〉JMS2025」。第3回は私たちの生活を支える輸送分野についてお伝えします。

 

◯山積する課題

物流業界では、時間外労働時間の上限規制の強化などを背景とした深刻なドライバー不足が問題となっています。NX総合研究所の試算によると、有効な対策がなされなかった場合、2030年度には輸送能力が約34%も不足するといいます。

人手不足の影響はすでに表面化しています。

11月末の大規模セール「ブラックフライデー」の際、宅配大手のヤマト運輸と佐川急便は荷物の急増により一部の配送に遅れが生じたと発表しました。

バスドライバーの不足による地域の足の消失も深刻な課題です。

札幌圏を中心に路線バスを運行する北海道中央バスは今月1日、運転手不足を背景に平日ダイヤで228便の大幅減便を実施しました。

 

◯カギは自動化と効率化

輸送能力不足解消のカギとなるのが、自動化と効率化です。

商用車国内最大手のいすゞは、コンセプトカー「VCCC(Vertical Core Cycle Concept)」を発表しました。

VCCCは縦型フレームの自律走行モジュールを多様な荷台と組み合わせる設計となっており、荷台ごと積荷を交換することで荷待ち時間なしで効率的にものを運べる利点があります。

また、ブースには大阪関西万博でも活躍したEVバス「エルガEV」の自動運転モデルの展示や自動運転VR体験コーナーなどもあり、27年度中の自動運転「レベル4(特定条件下での完全自動運転)」の事業化を目指す同社の姿勢が表れていました。

いすゞのコンセプトカー「VCCC(Vertical Core Cycle Concept)」(10月29日筆者撮影)

 

◯動力源の多様化

環境意識の高まりを受けた脱炭素化の動きに合わせ、商用車部門でも動力源の多様化が進んでいます。

中国EV大手のBYDは、今回乗用車ブースから独立して商用車EV専用ブースを設けました。

日本市場向けの軽EV「RACCO(ラッコ)」の発表で話題を呼んだBYDですが、商用車でも日本向けに開発した、普通免許で運転可能なEVトラック「T35」を世界初公開するなど攻勢を強めています。

三菱ふそうは、水素をエンジンで燃焼させる「H2IC」と、水素を燃料電池システムで電気に変換する「H2FC」の2種類の大型トラックのコンセプトモデルを公開しました。

二酸化炭素排出削減に向け、各社各様の取り組みが進められています。

 

◯課題となるインフラ整備

動力源の多様化に際して重要になるのが、充電スタンドや水素ステーションなどの整備です。日本ではこうしたインフラが不足している点が課題となっています。

電子・電気機器大手のニチコンは、商用EV向け急速充電器「サイクリックマルチ充電器」を出展しました。

1台の急速充電器から分岐したディスペンサーを最大6台のEVにつなげ、充電残量が少ない車両から順番に充電するサイクリック充電を行うことができます。

従来はEV1台につき1台の充電器が必要でしたが、電源盤を1つにまとめることで省スペース化や騒音対策に貢献できるといいます。

担当者によると、すでに京浜急行バスなどがシステムを導入しているといいます。

商用EV向け急速充電器「サイクリックマルチ充電器」(10月29日筆者撮影)

 

◯トラックすら不要に? 未来の物流道路

技術の発達は、物流の常識そのものを覆すかもしれません。

自動倉庫システムを手がけるCuebusは、「自動物流道路」を展示しました。自動物流道路は、国土交通省も注目する事業で、鹿島建設、豊田自動織機、野村不動産などの業界を代表する大企業も実装に向けた取り組みを進めています。

Cuebusは独自のリニアモータを用いた自動化倉庫の仕組みを応用し、1トンの荷物を積載可能な輸送機器が専用道路を無人で移動すること目指しています。

専用道路は高速道路などに並行して建設することが想定されており、ドライバー不足や輸送時の二酸化炭素排出といった課題を解消することが期待されています。

遠い未来の技術のように感じてしまいますが、来年2月からつくば市で実証実験が始まるといい、実現はそう遠くないかも知れません。

Cuebusが手がける「自動物流道路」(10月29日筆者撮影)

 

私たちの生活になくてはならない輸送・物流網。

一見地味にも映るインフラは、最新のテクノロジーによって支えられています。

 

関連記事:

あらたにす「〈特集〉JMS2025(1)未来から近未来へ? 2年前との比較から読み解くモビリティショー」

あらたにす「〈特集〉JMS2025(2)プレスカンファレンスから見る各社の動向」

 

参考記事:

日経電子版「ヤマト運輸も一部で配送遅れ 佐川急便に続きブラックフライデーで」(2025年11月27日)

日経電子版「いすゞ自動車、米新興と自動運転でGO 広域でAI走行に道」(2025年11月18日)

日経電子版「BYD、日本向けトラック「T35」公開 26年春ごろ発売」(2025年10月29日)

 

参考資料:

ISUZU/UD  TRUCKS JAPAN MOBILITY SHOW 2025

国土交通省|日本の物流を変える、自動物流道路(オートフロー・ロード)

CUEBUS_自動物流道路|CUEBUS

持続可能な物流の実現に向けた検討会「持続可能な物流の実現に向けた検討会 最終取りまとめ」

Japan Mobility Show 2025 商用車|BYD JAPAN株式会社

Japan Mobility Show 2025|ホームページ

Japan Mobility Show 2025|三菱ふそうトラック・バス株式会社

北海道中央バス株式会社「令和7年冬ダイヤ改正について」