現在、立命館大学では、「立命館憲章」の改正をめぐり、学生や教職員から強い反発の声が上がっています。今回の改正に関して提起されている主な問題点は、主に手続きの不透明性と文言の変更の2点に集約されます。
1. 「第2次世界大戦後、戦争の痛苦の体験を踏まえて」という重要な文言や、その他多くの文言が改正案で削除されたこと。
2. 改正の手続きがトップダウンで進められ、大学の構成員、特に学生への周知と意見聴取が不十分なまま進行したこと。
改正案をめぐる経緯
現行憲章について、立命館大学新聞社の5月28日付の記事で以下のことが書かれています。
・⽴命館憲章
立命館の教育・研究活動の根幹にある理念や精神を明文化し、立命館に関わるすべての構成員が共有する価値観や行動指針を示すもの。学園のアイデンティティーの拠り所として2006年に制定された。教学や経営などにおいて、⼀貫性と方向性を確保する上で、重要な役割を担っている。
今年4月に発表された改正案では、上述の「第2次世界大戦後、戦争の痛苦の体験を踏まえて」という表現が削除されました。これに対し、学生や教職員の反発が高まったため、大学側は10月に修正案を発表しました。修正案では、「第2次世界大戦後〜」の文言や、4月案では削除されていた「自主、民主、公正、公開、非暴力の原則を貫き」という文言が復活・追加されました。
11月19日には衣笠キャンパスで憲章改正に関する懇談会が開かれ、副総長2名、常務理事1名が出席し、学生と意見交換を行いました。大学側は「第2次世界大戦後〜」の文言を削除した理由について、以下の通り説明しました。
「立命館憲章は平和宣言ではない。痛苦の体験は第2次世界大戦だけに限定されるものではなく、広くあてはまるため限定すべきではない。また、『痛苦』という言葉は英語にしにくい上、様々な立場によって意味合いが変わるため、留学生の理解に関しても変えるべきと判断した」
重要だと声が上がった部分に関しては復活したものの、いまだ多くの疑問点は存在します。
現在の憲章では「歴史を誠実に見つめ」という文言が含まれていますが、改正案と修正案では削除されています。歴史を誠実に見つめることは、日本人、外国人関係なく構成員全員に向けられるものではないでしょうか。形だけの変更でなく、きちんと意味を持ち、日本人や留学生関係なく納得できる文言にできるまで議論を続けていく必要があります。
「全構成員自治」と手続きの透明性
立命館大学新聞の小林秀太さんは、憲章改正について積極的に記事を発信し、その中で手続きの問題を指摘しています。
小林さんは、「学生に周知されずに進んでいく手続きに問題がある。立命館は、大学を構成するすべての構成員による自治という『全構成員自治』の考え方が大切にされてきた。今回の憲章改正の手続きは、その理念に反する上意下達な判断だったのではないか」と述べています。
懇談会で学生から出た質問の多くは、まさにこの手続きの透明性に関するものでした。「学生への改正案周知のタイミングが遅いのではないか」「もっと学生の意見を取り入れていれば、このような事態にはならなかった」といった意見が出されています。
しかし、実態として、私の周りでは立命館憲章に関心のある学生はごく一部であり、多くの学生はそもそも憲章が何であるかさえ分かっていないのが現状ではないでしょうか。今回の騒動は、「全構成員自治」という理念が何をもって成立していると言えるのか、また、改正案にも含まれる「公開」の原則が、その手続きの過程で本当に実践されていたのかどうかを、大学全体に問いかけています。
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現行の立命館憲章は次の通り
立命館は、西園寺公望を学祖とし、1900年、中川小十郎によって京都法政学校として創設された。「立命」の名は、『孟子』の「尽心章句」に由来し、立命館は「学問を通じて、自らの人生を切り拓く修養の場」を意味する。
立命館は、建学の精神を「自由と清新」とし、第2次世界大戦後、戦争の痛苦の体験を踏まえて、教学理念を「平和と民主主義」とした。
立命館は、時代と社会に真摯に向き合い、自主性を貫き、幾多の困難を乗り越えながら、広く内外の協力と支援を得て私立総合学園への道を歩んできた。
立命館は、アジア太平洋地域に位置する日本の学園として、歴史を誠実に見つめ、国際相互理解を通じた多文化共生の学園を確立する。
立命館は、教育・研究および文化・スポーツ活動を通じて信頼と連帯を育み、地域に根ざし、国際社会に開かれた学園づくりを進める。
立命館は、学園運営にあたって、私立の学園であることの特性を活かし、自主、民主、公正、公開、非暴力の原則を貫き、教職員と学生の参加、校友と父母の協力のもとに、社会連携を強め、学園の発展に努める。
立命館は、人類の未来を切り拓くために、学問研究の自由に基づき普遍的な価値の創造と人類的諸課題の解明に邁進する。その教育にあたっては、建学の精神と教学理念に基づき、「未来を信じ、未来に生きる」の精神をもって、確かな学力の上に、豊かな個性を花開かせ、正義と倫理をもった地球市民として活躍できる人間の育成に努める。
立命館は、この憲章の本旨を踏まえ、教育・研究機関として世界と日本の平和的・民主的・持続的発展に貢献する。
2006年7月21日 学校法人 立命館
参考
立命館大学新聞社 「立命館憲章改正」関連記事