日本シリーズは4勝1敗でソフトバンクが制覇した。ほとんどの試合で接戦が演じられたのが本シリーズの特徴だが、その中でも勝敗を分けたポイントはどこか。独自の視点で解説していきたい
第一戦
阪神2-1ソフトバンク 先発:村上-有原
阪神の先発は中9日で村上。ソフトバンクは中8日で有原がマウンドへ上がった。有原と村上は対照的な立ち上がりを見せた。ストレートがよく走っていた有原は初回を無失点で切り抜け、その後も快調に飛ばした。この日はストレートのみならず、チェンジアップ、フォークと下方向の変化球も高い精度で低めに制球されており、5回までに奪ったアウトのうち実に14つがこの3つの球種によるものである。
対する村上はCS同様、ピリッとしない立ち上がりだった。先頭の柳田に四球を出すと、後続の周東は初球で打ち取るも、続く柳町近藤には3ボールからストライクを取るなど後手後手感が目立った。柳町は三振で切ったものの、近藤には7球目のストレートを弾き返され、あっさりと先取点を献上することとなった。栗原にもヒットを打たれ不穏な空気が流れる中、続く川瀬は打ち取りなんとか最少失点でしのいだ。先が思いやられる内容だったが2回以降は一転、3安打1四球と完璧に抑え、7回1失点の快投を披露した。
- 試合のキーポイント1:足を絡めた攻撃
この試合は特に足が得点に直結した。初回、ホークスの周東が走った後に近藤のタイムリー。6回の阪神は近本、中野が計2盗塁を記録し、いずれも生還した。阪神はCSでも足を絡めた攻撃を仕掛けており、この後のシリーズも足が勝敗を分ける要になるのではと、この時点で筆者は感じた。
- 試合のキーポイント2:強打者への被弾ケア
1では両者の類似性が垣間見えたが、こちらは両者で対照的となった。場面は6回。ホークスは1アウトランナー3塁と、1塁が空いている状態で4番の佐藤と相対した。3ボールから4球目のやや浮いたチェンジアップを捉えられ、勝ち越しのツーベースとされた。この時、後ろはCS絶不調の大山。結果論ではあるが、ここは敬遠が妥当だったのではないか。
対する阪神は8回。2アウト2塁の場面で代打山川を迎える。この打席筆者は阪神ベンチの被弾ケアを徹底する気概を感じた。恐らく、「歩かせていいから外の低めで勝負しろ」という指示が出ていたと思う。2球目の内角ストレートを除き、全て逃げていくスライダー。結果山川は歩かせたものの、後続の野村を打ち取った阪神が反撃の芽を摘み取って初戦を制した。
第二戦
阪神1-10ソフトバンク 先発:デュプランティエ-上沢
阪神の先発は8月以降チームを離脱していたデュプランティエが復帰登板。ソフトバンクはCSから中8日で上沢がマウンドへ上がった。
阪神は初回、中野森下佐藤の3連打先制。しかし、なおも1アウト2,3塁の場面から大山、小幡でランナーを返せないのが痛かった。ただ、初回に打たれたものの上沢もストレート、フォークは良かったと感じた。唯一、カーブだけは制球に苦しんでいる印象を受けた。実際初回の佐藤の打席も甘いカーブを痛打された。しかし、2回以降は立て直し6回1失点と試合を作った。
対する阪神のデュプランティエ。故障明けで実戦登板がなかったことが不安視されていたが、その不安は見事に当たる。上沢のストレートが走っていた分、デュプランティエの速球にはどこか勢いが感じられなかった。制球にも苦しんでおり、速球、変化球どちらも打ち返される苦しい展開となった。初回に打たれた4本のヒットのうち、ボールゾーンの球を2回ヒットにされていることが如何に本調子ではないかを物語っているようだった。
結局この日は2回途中7失点と惨憺たる有様でマウンドを降りるのだった。
- 試合のキーポイント1:海野の機転
先述したように、この日の上沢はストレートとフォークこそいいものの、カーブがイマイチのように映った。捕手である海野もそれを感じたのか、2回以降は調子が上がるまでカーブの割合をかなり減らしたことが奏功したと感じる。初回は佐藤までで4球投げたカーブを5番の大山以後は封印。2回は0球、3回は1球しか投げていない。4回からは一転、3球、2球、4球と割合を増やしており、見せ球として機能していることが窺える。
- 試合のキーポイント2:初回の疑惑の判定
初回1アウト2塁で迎えた柳町の打席。カウント3‐2から投げたカーブは絶妙なアウトローへ…と思いきや球審の手は上がらず。NPB+のデータを見ても明確にゾーン内に入っていること、後続の近藤を打ち取っていることから初回を無失点で切り抜けることもできたのではないかと思うと、後味の悪い一球となった。
- 試合のキーポイント3:山川を波に乗せる
この日の山川は計5打点を稼ぐ大活躍。この日を起点に、4戦目まで3試合連続でホームランを打った山川はシリーズMVPにも輝いた。特に2、3戦目では阪神バッテリーが外一辺倒で勝負したが、そこを打たれるという悪い流れが繰り返されており、配球に疑問が残った。
第三戦
阪神1-2ソフトバンク 先発:才木-モイネロ
阪神の先発はCSから中10日で才木。ソフトバンクは中6日でモイネロがマウンドへ上がる。最優秀防御率同士の投げ合いということもあり、大方の予想通り投手戦が繰り広げられた。モイネロは初回の佐藤に打たれたタイムリーのみで6回1失点。才木も負けこそついたものの6回途中2失点と試合を作る内容だった。モイネロはCS同様に隙のないピッチングだった。カーブ、スライダー、チェンジアップ。速球も含めてどの球種でもカウントを取れて勝負もできる。才木はストレートの威力が圧巻だった。特に初回は投じた8球すべてがストレートで球の力強さが印象的だった。6回に四球を出してピンチを広げたとこで交代したが、後続の及川がなんとかしのいで見せた。
- 試合のキーポイント1:被弾ケアを意識しすぎた故の「逃げ」
この日の山川は1打数1安打1ホーマー。ただしそれよりも気になったのは阪神投手陣が3つも四球を与えていることだ。申告敬遠を除いた2つの四球はいずれも早いカウントで歩かせている。勝負に、というよりは逃げのようにも映った。一方でそれらの打席すらも内角を使うことなく外一辺倒で勝負したことにはやはり疑問が残る。2打席目の失投のスライダーを逃さなかった山川は見事だが、阪神側の逃げが目立った。
- 試合のキーポイント2:阪神の下位打線
この試合でモイネロは108球を投じたが、1‐4番の4人に対して半分の54球を費やしている。5番以降の5人は省エネピッチングできたことが窺える。特に顕著だったのは6回。中軸の3番森下、4番佐藤にはどちらも3ボールとボール先行となった。しかし、続く5番大山~7番坂本までのボール球は3人合わせてたったの1球。結局下位打線が倒れてこの回も無得点。中軸がチャンスメイクをするも後続が活かせないというもどかしい展開が続いた。そしてこれこそ5戦合わせて8点しか取れなかった得点力不足の原因だろう。
第四戦
阪神2-3ソフトバンク 先発:髙橋-大津
阪神の先発はCSから中11日で髙橋。ソフトバンクは中9日で大津が先発。髙橋はCSで7回までノーヒットノーランの快投を見せたこともあり、この一戦にかかる期待も一際大きかった。そんな中でソフトバンクが2回に山川のソロで先制。この日から内角攻めを敢行した阪神バッテリーだったが、キャッチャー坂本が内に構えたところ髙橋のストレートは外角の真ん中へ。この失投を見逃さなかった山川がバックスクリーンに運ぶ豪快な一撃を放った。髙橋にとっては唯一と言ってもいいほどの失投であり悔やまれる。また、失投を逃さない山川の状態の良さも表れた一発だった。一方で4回の第2打席では内のスライダーを見せ、最後は内のストレートで見逃がしの三振に。この日は第四打席でも桐敷が内角を上手く使い最後は三振に切っている。この内角の使い方を阪神バッテリーはもう少し早く気づきたかった。
一方で大津は5回までに59球しか投じず、100投球未満で完封する快記録「マダックス」も見えるペースで阪神打線を抑え込んでいた。筆者の目からはチェンジアップの高さがやや気になったがそんな不安は杞憂に、次々と阪神打線を手玉に取っていた。
- 試合のキーポイント1:攻めの小久保采配
なんと言ってもホークスの小久保監督の果断さが光った試合だった。絶好調でシーズン中でも類を見ないような内容の大津を5回で降ろし、代打近藤を送る判断。そして中軸と相対させるために「7回の男」藤井を前倒しで起用する柔軟な姿勢。昨年までの4番山川、5番近藤を固定した姿とは対照的な積極さが決勝タイムリーをもたらし、1点差での勝利をもたらしたと言えよう。
- 試合のキーポイント2:ピッチャーの出塁
ソフトバンクの大津は1安打を含む2出塁。そのうち5回の出塁では得点にも結び付いた。9番というのは最も出塁しにくい代わりに最も出塁させてはいけない打者だ。ランナーを置いて上位を迎えるのとそうでないとでは緊迫度合いが違うだろう。余談だが、筆者の応援するヤクルトは本シーズンで幾度となく投手を出塁させては失点していたため、この失点は非常に頭が痛い。
第五戦
阪神2-3ソフトバンク 先発:大竹-有原
阪神の先発はCSでの登板がなかった大竹。ソフトバンクは中4日で有原が先発。有原は中4日ということもあってか、初戦ほどのパフォーマンスが出せていないように見えた。特に初戦では抜群のキレを見せた下方向の変化球が甘くなることも多く、四球の数も増えていた。明らかに本調子ではない有原をどこまで引っ張るかという点に筆者は注目していた。第4戦で見せた小久保監督の果断性を考えれば、3回でスパっと交代も考えられた。ただ、その有原も不調ながら粘りのピッチングを見せた。5回途中で交代したものの、2失点に抑えてみせた。
一方の大竹はシーズン同様、投げミスをしないコントロールと巧みな投球術で古巣を相手に2塁も踏ませなかった。打たれたヒットは全て単打の3本のみ。四死球も与えない圧巻のピッチングだった。
- 試合のキーポイント1:山川への内角攻め
前日の一発は惜しかった。内角攻めに踏み切ったものの、たった一球の失投に泣くこととなった。この日も攻め方は昨日と変わらなかった。そして内角攻めをしたことが功を奏したのだろう。この日の山川を4打席で1安打に封じることに成功した。
- 試合のキーポイント2:スーパースター柳田悠岐
37歳とは思えない力強いスイングは、セの絶対的な中継ぎを一撃で粉砕した。柳田悠岐、山田哲人、坂本勇人。この3人は10年以上前から日本プロ野球を引っ張ってきた存在だ。「侍ジャパン」には幾度となく選出され、その応援歌は球団の垣根を超えて浸透する、そんなスーパースターが甲子園での存在感をアピールした。石井の球も完璧な外角のストレートだった。あれを打たれたらお手上げだ。
総評
ソフトバンクの層の厚さが際立ったシリーズだった。上位打線、先発中継ぎと力は互角だったが、唯一勝敗を分けたのはやはり下位打線の差だろう。6番以下の安打数を比べてとソフトバンクは16、阪神は11である。また、代打も勝敗を分けた。特に第5戦で小久保監督は今季首位打者を取っている牧原を下げてまで近藤を切る という采配をした。攻めの姿勢もさながら、近藤を待機させることができたソフトバンクと、絶対的代打が不在である阪神との差が見えた。
阪神は上位打線が抜けた後のビションが見えてこない。投手は両リーグでも突出しているが、近本〜大山の後釜が不在では3年先には得点力不足にあえぐ恐れがある。近本は現在FA権の行使を熟考している。佐藤は来オフにもメジャー挑戦が噂される。この穴をどう埋めるのか。勝敗以上に、長期的な課題が露呈したように思う。