現在、為政者による報道への圧力が強まっています。15日、アメリカの国防総省で、報道各社の記者が建物から退去しました。当省が導入する新たな報道規制にメディアが反発したためです。
日本経済新聞によれば、新たな報道規制は当局が承認した軍関係者以外への記者の接触を制限する内容だといいます。許可を得ずに報道した記者には取材許可証を取り消すそうです。報道の自由を統制するような内容に反発したメディア各社が規制に署名しなかったため、記者らは取材許可証を返して退去することとなりました。
トランプ氏に好意的な保守系メディアのFOXニュースも含め、ニューヨーク・タイムズやCNNなど、主要なメディアのほぼすべてが署名を拒否したそうです。あらたにすを運営する朝日新聞社、読売新聞社、日本経済新聞社も署名していません。保守系ケーブルニュース局のワン・アメリカ・ニュース・ネットワークのみが署名したとみられています。
米大統領のトランプ氏は批判的なメディアに対して訴訟を起こしたり、放送免許をはく奪すると発言したりしていて、報道への圧力を強めていると言わざるを得ません。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が発表する報道の自由度ランキングで、25年のアメリカの順位は57位とこれまでで最低となりました。(日本は66位)
アメリカでは合衆国憲法修正第1条で報道の自由を保障しています。ウォーターゲート事件を追う記者を描いたかつてのアメリカ映画「大統領の陰謀」では、編集主幹が「守るべきは憲法の修正第1条だ」と言い、取材の続行を指示するシーンが印象的です。現在の、政権に都合の悪いニュースに「フェイクニュース」と言うレッテルを貼り、報道の自由を制限しようとする姿勢は憲法の理念に沿っているとは思えません。
日本でも同様に分断が進み、マスコミの報道を信用できないという主張が見られます。自分に都合の悪い情報をフェイクニュースだと断じてしまう現象も後を絶ちません。もちろん、メディアが自浄作用を働かせ、報道をよりよいものにしていく努力は必要です。しかし、SNSが全盛の時代だからこそ、受け手の私たちが、報道されるありのままの「ファクト」の意味を自ら吟味する冷静さをもつことが大切だと痛感します。
為政者からの報道規制は、戦時中の大本営発表のように真実を覆い隠し、政策をゆがめるものになりかねません。メディアを学んでいる身であるからこそ、報道の自由のあり方には厳しい目を向け続けていきます。
参考記事
10月16日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)25面「国防総省取材規則 署名拒む社相次ぐ」
10月16日付 読売新聞朝刊(大阪13版)2面「主要メディア署名拒否 米国防総省取材指針」関連記事9面
5月3日付 日経電子版「報道の自由度、米国が過去最低 「ジャーナリズムに危機」」
9月23日付 日経電子版「米国防総省、報道規制の導入を通知 「事前許可」要求もメディア反発」
10月15日付 日経電子版「米国防総省の報道規制、ほぼ全メディアが拒否 報道の自由を重視」
10月16日付 日経電子版「米国防総省から記者が一斉退去 報道規制を拒否で」