6年目の希望の光

 先の見えない暗闇の中に、灯る光は、大きな勇気を与えてくれました。

 3月18日午後8時、福島県郡山市でレンタカーを借りて、いわき市に向かいました。その距離およそ80km。途中から街灯はほとんどなくなり、暗闇の中を走り続けました。初めての土地であるということと、時間が遅いこともあいまって、心細くなりました。そこに現れたコンビニの明かり。ひとりではないことを感じ、ホッとしました。そこで、温かい飲み物を買い、一休みすると、また、前に進む力が出てきました。

写真1 暗闇に灯るコンビニ写真1 暗闇に灯るコンビニ

 次に車を走らせたのは、国道6号のいわき市-南相馬市間です。この区間には、帰還困難区域に指定されている双葉町と大熊町、避難指示が出ている浪江町と富岡町、そして福島第一原子力発電所もあります。6年たった、まちの姿を見てきました。

 6号線を北へ走っていくと、立て看板が見えてきました。

写真2 帰還困難区域写真2 帰還困難区域 立て看板
写真3 自動車以外は通行できません写真3 歩行者などの通行を禁止する看板

 帰還困難区域を隔てるのはこの立て看板のみです。自動車であれば、誰でもが通行を許されることに違和感を覚えながら、先に進みました。

 7kmほど進むと見えてきたのは、

写真4 ようこそ福島第一原子力発電所へ写真4 ようこそ 福島第一原子力発電所へ

 今となっては、たちの悪い冗談としか映りません。この看板にそって第一原子力発電所へ向かうと、通行許可証を確認するところで、止められました。そこに立っていたのは、「原子力災害現地対策本部」と書かれた制服を身に付け、マスク姿の男性です。話を聞くと、6年前から発電関係の仕事に携わっているそうです。失礼を顧みずに「ここで働いていて、怖くないですか」とたずねると、「世間が騒ぐほど恐ろしいものではないので、怖くない。ただ、まだ線量の高いところもあるから、ここから先には進めない」と注意されました。そんな危険と隣り合わせで働いている男性を心配してしまいました。

 危険と隣り合わせなのは、3月31日、4月1日に避難指示が解除される浪江町と富岡町の一部も同じです。この地域にどれだけの人が戻ってくるのか、いままでの生活を取り戻すのにどれだけの時間がかかるのか、息長く見守り続けたいです。

 もう一つ、強く感じたことは、放射能の不気味さです。帰還困難区域とそうでない区域には同じ空気が流れています。しかし、帰還困難区域内は徒歩やバイク、自転車では通行できないのです。そのわりに、区域内で仕事をされている方は身軽な装いです。また、当然のことながら、放射能は目に見えません。においもありません。本当にここに存在するのか、確認できないのです。そして、その放射能が人体にどう影響するのか、十分には分かっていません。

 そんな原発の事故に見舞われ、福島県外に避難した子どもたちがいじめにあっていることが明らかなっています。子どもたちは「〇〇菌」と呼ばれているそうです。私はいじめる側を擁護するつもりは全くありません。ただ、このいじめは、放射能が汚いから「菌」と呼ばれるのではく、不気味さゆえではないでしょうか。いじめを無くすためにも、国は放射能が人体に及ぼす影響やそれに対する身の守り方などを明確にし、それに伴う政策を打ち出すべきではないか。そう思いながら南相馬市まで走り、一日目を終えました。

 翌日、いわき市に向かって、当てもなく走っていると、人だかりを発見しました。

写真5 植樹祭写真5 植樹祭

 立ち寄ってみると、星廼宮神社の植樹祭です。東日本大震災の津波によって、社殿が流出するなどの被害を受けたそうです。新たに本殿を造営する地に、レンギョウやカンツバキなど計12種、1050本の木を植えるため、地域の住民や小中学生など180人が集まっていました。私も久之浜中学校の生徒15名に交じって、参加させてもらいました。

写真6 木を植える中学生写真6 木を植える中学生

 作業を終え、中学2年生3人が震災当時のことや今の思いを聞かせてくれました。津波によって家が流された男の子は、「なにも無くなった。家も思い出の公園も。全部、戻してほしい」と心の内を明かしました。もう一人は「波の音を聞くのも怖い。海では遊べない。余震がくると、あの時を思い出す」。地震や津波の恐ろしさが、今でも焼き付いていることを話しました。

 その一方で彼らは、こうも言いました。「今日、木を植えた、ここが、これからの思い出の場所」と。

 未来を見据える姿に感動しました。子どもたちの笑顔は希望の光のようであります。今回、植えた木々が成長するのに少なくとも3~5年かかるそうです。復興はまだ道半ばかもしれません。しかし、どんな暗闇でも、光さえ灯っていれば、前に進めることを知っています。

 5年後の春、改めて、この地を訪れたいと思います。「希望」の花言葉をもつレンギョウが黄色い花を咲かせる時期に。