150円の薬が30円で手に入るーその恩恵とツケ

「国の財政が危ない!」という漠然とした危機感は誰しもが抱いているはずです。実際、わが国の内国債(赤字国債や財政投融資債などの合計)の残高は約982兆円に上ります)昨年11月財務省発表)内閣府が17日に提出した基礎的財政収支の新たな試算では、今後高い経済成長が実現した場合でも2025年度に3兆6000億円の赤字が残ります。

この試算が発表される前の昨年10月、消費税が10%に増税されました。一部の家電などで若干の駆け込み需要が見られたものの、酒類や外食を除く食料品の税率は8%に据え置かれたためにその後は大きな反動減は起きていないと見る向きがあります。また、この増税に合わせて、政府は年々膨らむ社会保障費を圧縮するために制度改革を行うことにしています。

例えば病院で受診した際に支払う窓口負担。現在高齢者は原則として1割負担で済んでいますが、昨年12月に政府が示した社会保障制度改革の中間報告では、一定所得がある75歳以上の高齢者に関しては2割に引き上げる方針を明記しました。また、年金の受給開始年齢を75歳まで引き上げることや紹介状がないまま大病院を受診した際に求める負担を現在より引き上げたり、70歳まで就労できるように企業へ努力義務を課す方針なども示されています。

また、大企業で働くサラリーマンとその家族およそ3,000万人が加入する健康保険組合(健保連)が厚労省に提言している内容には、花粉症治療薬を医療保険の適用から外すことも含まれています。どういうことか。例えばドラッグストアで販売されている「アレグラ」。店で14日分購入すると2,000円程度。1日当たりおよそ140円の計算です。しかし、病院で花粉症を訴えて薬を処方されると、同じ「アレグラ」でも30日分で1日当たりの金額は51円とほぼ3分の1にまで下がります。さらに後発医薬品(いわゆるジェネリック医薬品)を処方されれば1日当たり30円で処方を受けることができるのです。もちろん、安くなっている分は保険料で賄われています。

この事実を知れば、ドラッグストアでたまるポイントや病院の受診料などを考慮しても市販薬を購入するほうが高くつくため病院に患者が流れ、健康保険の財政を圧迫しているのです。もし花粉症治療薬など軽症者向けの薬を医療保険から外せば、年間600億円を削減できるといいます。

当然、いままで病院を受診していた人から反発が来ているといいます。そういう筆者も花粉症を持っており、春には目がしょぼしょぼ、鼻がムズムズして仕方ありません。しかし、だからと言って重症になったり、生死を彷徨うわけではありません。軽症者向け医薬品を保険適用にしてくれるに越したことはありませんが、もし外れても賛成します。

少子高齢化が進み、昔のような大きな経済成長が望めない今、財政をできるだけ安定させて次世代に受け継ぐために、私たちにとっても広く浅く負担を受け止める必要に迫られています。

「無駄遣いが多い」からそれを削減してからにしろ― そういう声もあるかと思います。しかし、具体的にその無駄とは何なのか。その無駄をなくして財政が劇的に改善するのか。疑問です。もちろん、無駄を肯定するわけではありません。しかし、濡れ雑巾はいつまでも永遠に絞れるわけではありません。いつか限界が来ます。「無駄」があるうちはそれを削れば多くの人にとっては分かりやすい成果ですから納得できるかもしれません。でも、雑巾を絞り切って、これ以上無駄がない状況まできたら、それ以上負担の先送りは本当にできなくなります。これ以上「無駄削減」の議論に留まるのではなく、負担できる人に負担をお願いする時期に来ているのではないでしょうか

参考記事:

18日付 読売新聞朝刊14版 11面(経済)「基礎的収支 25年度赤字」

参考資料:

NHKニュース「花粉症の薬は自腹で!なぜ 旋律の未来予想図とは」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191017/k10012134771000.html

日本経済新聞「75歳以上医療費、一定の所得で2割負担 政府中間報告」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53540120Z11C19A2MM8000/