師走も半ばを過ぎ、いよいよ新年を迎える。筆者は最近、手帳を新調した。役目を終えた2019年の手帳を読み返すと、今年も各地へ足を運んだことが分かる。そこで気が付いた。3月に留学先から帰国して以降、計5回も渡韓していた。5、7、8月にそれぞれ1回ずつ、11月には2回。およそ2カ月に1回のペースだ。目的はシンポジウムの参加や友人との旅行、あらたにすの取材など。これほどの頻度で足を運べた理由は、航空券の安さにある。
主に成田空港―ソウル仁川空港間を就航するLCCを利用してきた。予約する時期にもよるが、片道料金の相場は大体6000円〜12000円程度だった。手元に残っている領収書を確認すると、5月に利用したソウル発成田行きの便は運賃が1260円、燃油サーチャージなどを含めても税込み4900円だった。今なお、ソウル行きの国際便は破格である。
例えば来月25日(土)に国内の主要空港からソウルへ向かう便の価格は以下の通り。新千歳発1万2910円、成田発7360円、中部発7460円、関西発6870円、福岡発3680円(いずれも17日正午時点。大手旅行サイト「スカイスキャナー」で検索した最安価)。東京―名古屋間の新幹線運賃が1万1000円(のぞみ自由席料金)なので、同等かそれよりも安い計算だ。
しかし、両国を行き来する人の数は減ってきている。観光庁が先月20日に発表した10月の訪日韓国人客数は前年同月比65.5%減の19万7300人で、4カ月連続の減少となった。また、韓国観光公社が発表した同月の訪韓日本人観光客数は前年同月比14.4%減少の24万8541人。2018年3月から増え続けていたが19カ月ぶりに減少へ転じた。「韓流ブーム」を支える若者世代の夏休みが終わったことや、今夏以降、日韓両国を結ぶ航空便の数が減った影響が現れたと考えられる。
加えて韓国側の事情もある。今年7月に経産省が打ち出した半導体材料などの輸出手続き厳格化に端を発した、日本への反発だ。日本製品の不買運動だけでなく、日本旅行への抵抗感もあるらしい。兵役中の休暇で日本旅行を計画した友人は、両親から反対され、結局中国旅行に変更した。また、別の韓国の友人は「たとえ日本に旅行したとして、他人に土産話をできるような雰囲気ではない。旅行へ行くことへの抵抗感というより、SNSに『日本へ行った』と投稿すると炎上する恐れがある」という。自分の意思ではなく、周りを気にして来日しない、といった事情のようだ。
筆者にも思い当たる節がある。「韓国へ行ってきた」と言うと周囲から「大丈夫だったのか」「こんな時に行ってトラブルに遭わないのか」と心配される。在韓日本大使館からは「集会等を避けて行動するなど,無用なトラブルに巻き込まれることのないよう,ご注意ください」とメールが届く。日韓関係の悪化から韓国への不信感が周囲で増しているのは否めない。
だが、実際に行ってみると日本人に対するヘイトは皆無である。タクシーの運転手は筆者が日本人だと知ると「ありがとう」と日本語で感謝の意を表してきた。街中で財布を失くしても、見ず知らずの駅員や警察官が親身に対応してくれた。日本大使館前の少女像の側で座り込みを続ける若い女性は「私たちが抗議しているのはあくまで日本政府。韓国に来てくれる日本人はむしろ歓迎したい」と笑顔で語ってくれた。
夏に訪れた際に街中で見かけた不買運動のステッカーは、11月に再訪した際にはほとんど無くなっていた(当時の状況は7月24日付あらたにす「【特集】ルポ 「戦後最悪」の韓国で見たもの」を参照)。新聞や雑誌の見出しでよく「最悪の日韓関係」といったものを見かけるが、現地を訪れた者の目で見る限り、市民レベルの日韓関係は決して悲観的ではない。
本日付の日経新聞朝刊は、年末年始に日本を発着する海外航空券予約でソウル便が最多であったと報じている。団体客は減ったものの、渡航費の安さなどの理由から個人の予約が取りやすい状況にある。実は筆者も年が明けてすぐに2泊3日でソウルへ行く。
韓国政府の頑なな態度や一部市民の熱心な不買運動をフォーカスした報道ばかりのため、良いイメージは無いかもしれない。ただ、ニュースで見るものと現地で感じるものは全く異なる。あくまで筆者の肌感覚だが、今のところ韓国ウォンは安い。2020年は先入観を捨て、安く行ける韓国を旅するのもアリかもしれない。
参考記事:
17日付日本経済新聞朝刊(東京12版)24面「海外航空券予約 ソウル便が最多」
11月21日付朝日新聞(電子版)「訪日韓国人、10月65%減 対韓輸出額は23%減 前年比」
参考資料:
11月22日付中央日報「한국인 안 가도 계속 오던 일본인, 10월부터 감소세 전환(韓国人が行かなくても来続けた日本人、10月から減少形勢に転換)」
同日付韓国聯合ニュース「10月の訪韓外国人8.4%増 日本人客は14.4%減」
日本政府観光局「訪日外客数・出国日本人数データ」