一昨日、新宿駅東口界隈を歩いていると家電量販店から威勢の良い声が聞こえてきた。「家電製品の購入は今日がラストチャンスです!」。消費増税前の駆け込み需要を狙っているらしい。周囲を見ても、駅の改札付近には定期券購入の列ができている。ディスカウントストアでは8%値引きセールを実施していた。中には大きな看板で「10月1日以降も価格を変えません」と堂々と宣言する店まで。消費税8%の最後の日、街はいつもと異なる賑わいを見せていた。
政府は1日、消費税率を10%に引き上げた。前回の引き上げは2014年4月なので、およそ5年半ぶりのこと。今回の増税にあたり、いくつかの負担軽減措置が設けられた。キャッシュレス決済によるポイント還元、子育て世帯や低所得者向けのプレミアム付商品券の配布、住宅ローンの減税、自動車減税。そして、全ての人に等しく与えられたのが「軽減税率」である。
飲食料品や購読される新聞などが税率8%に据え置かれた。麻生太郎財務相は同日の記者会見で「混乱する可能性はゼロではないと思うが、欧州では定着しており、やっていかなければいけない」と記者団に強調した。一方、現場からは戸惑いの声も上がっている。とくに外食店では店内で食べるかテイクアウトにするかで税率が変わってくる。朝刊各紙では軽減税率に困惑する店員や客の姿が取り上げられていた。
筆者が昨日チェーン系のカフェを訪れると店員が「店内で召し上がりますか?それともお持ち帰りでしょうか?」と念を押してきた。レジ脇には「レジでのお客様のご申告に沿って、税率が決まります」と注意書きまで掲げられていた。「今日から大変ですね」と声をかけると店員は「そうなんですよ」と苦笑していた。客の申告が100%嘘偽りのないもの、というわけでもないだろう。店側は性善説でいくしかあるまい。
財務相が「やっていかなければならない」と言うのだから、一国民である筆者も「軽減税率の対象を頭に叩き込んでやろう」と意気込みたくなる。日本経済新聞電子版に「クイズで分かる軽減税率」があったので、筆者も挑戦してみた。「毎日欠かさず新聞を読んでいるのだから解けて当然だ」と高を括っていた。しかし正答率は半分にも満たなかった。例えば「みりん風調味料は8%だが本みりんは10%」だという。飲食料品の中でも酒類は10%になるのだ。何ともややこしい。外食チェーンの中には自腹で税率を8%に据え置くところもあるらしい。消費者が「消費税ダブルスタンダード」に慣れるまでにはもうしばらく時間がかかりそうだ。
増税の評価は各紙で分かれた。読売新聞は1日の社説で「社会保障制度を安定させ、財政健全化を進めるためには欠かせない増税である」と評価した。一方朝日新聞は同じく社説で「(消費増税による歳入で)どんな社会保障のメニューをだれにどう届けるのか。(中略)所得や資産や少ない人への配慮、すなわち『再配分』の視点を忘れないようにするべきだ」と懐疑的な姿勢を見せた。日本経済新聞は増税を特筆した社説を掲載しなかったものの、1面で「高齢化で増える社会保障の費用を社会全体で負担する改革が一歩前進する」と意義を強調した。
全ては国のためになる。そうだとしても、国民が納得しているか、審判が下されるのは少し先になりそうだ。
参考記事:
2日付読売新聞朝刊(東京14版)1面「消費税10%始動」他、4、8、9、31面消費増税関連記事
同日付朝日新聞朝刊(東京14版)1面「消費税2桁時代スタート」他、2、4、6面消費増税関連記事
1日付日本経済新聞朝刊(東京14版)1面「消費税 きょうから10%」