インドネシアのジョコ大統領が、国会の年次教書演説で首都移転を表明しました。現在の首都であるジャワ島西部のジャカルタは、深刻な過密問題に加えて、地下水汲み上げによる地盤沈下などの環境問題を抱えています。そこで人口が少なく広大な土地が余っているカリマンタン島に移るそうです。
確かに、ジャカルタの人口密度は東京の2倍以上あり、多くの都市問題を抱えているとはいえ、オランダの植民地だった時代からの歴史ある首都を移転するとは、よく英断を下したと思います。
日本はどうでしょうか。東日本大震災の直後は、首都機能の移転論争が一部で起きましたが、最近はほとんど聞かなくなりました。ここで、改めて、日本の場合のメリットとデメリットを調べてみました。
最大のメリットは東京への一極集中を抑制できることです。地方の少子高齢化や過疎化を止めることが出来れば、日本全体の経済再成長につながるかもしれません。加えて、自然災害による首都機能麻痺のリスクを低減することが出来ます。
東京は歴史的に災害の多い地域です。国の有識者会議は、首都直下地震が起きた場合、死者は最大2万3000人、全壊・消失家屋は最大61万棟に及ぶと想定しています。富士山が噴火した場合は、東京23区で10cm以上の火山灰が降り積もり、交通網や電気、ガスなどのライフライン、農作物に大きな被害が生じることが予想されています。
万が一、地震と津波、噴火が同時に起きるようなことがあれば、そのダメージは計り知れません。最悪の場合、日本全体が麻痺するかもしれません。移転さえすれば、そのリスクを避けられます。
一方、最大のデメリットは費用です。国土交通省の審議会の試算によると、移転費用は総額12兆3千億円、うち公的負担額は4兆4千億円を見込んでいます。膨大な財政赤字を抱える政府には相当厳しい数字です。移転先での開発も大きな障壁です。人口がたくさん流入すれば、新たに宅地を造成したり、高層マンションを新築したりする必要があります。
しかし、どの地域においても、自然保護や環境問題を理由に急速な都市開発を嫌がる住民は一定数いるでしょう。しかも、日本全国、どの地域であっても、地震や火山噴火の影響は免れ得ないという意見もあります。
以上を踏まえると、首都機能の完全移転は現実的ではないようです。発展途上国のインドネシアなら、遷都を起爆剤に経済成長を加速させることも出来るかと思いますが、経済停滞気味の日本の場合は、中途半端な状態で挫折しそうな気がします。
たとえ成功したとしても、引き続き経済の中心となり、かつ皇居もある東京と新しい首都が連絡、連携を取り合うのは手間がかかります。やはり、現在のように、官民が協力して地方創生に取り組む方が、比較的安全かつ効率的に一極集中の是正を進められるのではないでしょうか。
参考記事:
16日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)7面「インドネシア首都 カリマンタンへ」
参考ウェブページ:
東京大学生産技術研究所「首都直下地震の被害想定」
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/drill/h26/tokyo/tokyo03_kato.pdf
富士山火山防災協議会「富士山ハザードマップ検討委員会報告書『第7章 噴火の被害想定』」
http://www.bousai.go.jp/kazan/fujisan-kyougikai/report/pdf/houkokusyo7.pdf