昨日、ソフトボール女子の国際親善試合、日米対抗ソフトボールが東京ドームで行われ、日本が延長戦の末にアメリカに1-0でサヨナラ勝ちしました。金メダル候補のライバルとの五輪本番前の大切な試合で、今日の各紙ともスポーツ面で報じ、朝のテレビ番組で見た人も多いのではないのでしょうか。日本は2008年の北京五輪で金メダル獲得していますが、その後五輪種目から外れ、20年の東京五輪では3大会ぶりに金メダルを目指しています。
私は今中央大学のソフトボール部で活動しています。今回は、ソフトボールの魅力と、東京五輪の見どころについて紹介したいと思います。
まず初めに、ソフトボールの魅力です。野球と似ていますが、全く違う競技だと思います。ソフトボールにしかない魅力。それはスピード感です。北京五輪で413球投げぬいた上野由岐子投手は、体感で150キロ~160キロのボールを投げます。昨年、日米対抗ソフトボールを観戦しました。上野投手がブルペンで1球投げただけで、そのスピードに一瞬会場が静まりました。
スピードを感じさせてくれるのは、投手だけではありません。守備も同様です。塁間が18メートル弱と野球の3分の2しかありません。捕球してから素早く1塁に送球しないと打者をアウトにするのは困難です。「世界一の遊撃手」と呼ばれた、シドニー五輪銀メダリストの安藤美佐子さん(47)に話を聞くことができました。何度か指導していただいたことがあり、取材を快諾していただきました。
▲シドニー五輪で着ていたユニフォームを見せる安藤美佐子さん。6月19日筆者撮影。
「1つのミスが命取りになる」と話してくれました。グローブからボールが出てしまうと打者をアウトにするのは難しく、またその一瞬の隙にランナーは次の塁に走ることが可能です。一方、野球では塁間が長いので打者をアウトにすることができます。逆に塁間が長いことで、1つのエラーで次の塁を陥れることができません。守備がもたもたしている時にランナーは常に次の塁をうかがう。そのスピード感はソフトボールにしかありません。
「相手がミスをしないかなと常に次の塁を狙っていた」と安藤さんは現役時代を振り返ってくれました。守備のミスがあった時に走者が次の塁を狙うのかどうかを注目してみると面白いと思いますし、初めて見る人でも楽しめると思います。
次に東京五輪の見どころです。注目すべきは投手です。「ピッチャー1人1人が自分の持っている力を出すことができるか」が一番の見どころだと安藤さんは考えます。日本は不動のエース上野選手を軸に世界と戦ってきました。たしかにずば抜けていて、誰もが認めていると思います。身長174センチ。日本の選手の中でも頭一つ分上背のある上野投手はアメリカの選手にも体格面で見劣りしません。昨日の試合ではけがで不在でした。ポスト上野と呼び声高い藤田倭選手(28)が8回11奪三振で米国打線を完封しました。彼女は今持っているベストの力を出し尽くせたのではないかと思います。
上野選手は不動のエースですが、現在36歳。五輪のときには37歳です。北京大会のように1人で何試合も投げることは不可能だと思います。「五輪という舞台で投手陣1人1人がベストを出せるか」が、日本が金メダルを獲得する鍵だと安藤さんは期待しています。
「自分が完璧なプレーをすると、観客が沸く。その歓声にプレーしている側が、鳥肌が立つんだよ」
安藤さんはその歓声を思い出すように話してくれました。五輪は特別な大会です。観客も日本人だけではありません。外国の人もいれば、ソフトボールを普段見ない人も足を運びます。テレビでは味わえないその試合の熱気を感じるためにも、球場に足を運んで、生で見たいと思います。
ソフトボールの魅力を知っていただけたでしょうか。惜しくもソフトボール競技は2024年のパリ五輪の追加種目に落選してしまいました。それだけに東京五輪に懸ける選手の思いは強いと思います。五輪まであと394日。金メダルを取る瞬間をこの目で見るのが今から楽しみです。
参考記事
26日付 朝日新聞朝刊(東京14版)14面(スポーツ)「ソフトボール 日米対抗戦 最終戦 日本勝ち越し」
26日付 日本経済新聞朝刊(東京13版)41面(スポーツ)「ソフト女子がサヨナラ勝ち」
26日付 読売新聞朝刊(東京13版)20面(スポーツ)「森8回サヨナラ打」