歴史を伝える 若者側の苦悩

 

4月にあらたにすデビューを果たして早くも3か月が過ぎようとしている。春頃は1000字ちょっとの原稿を書くのに丸一日頭を悩ませていた。自分が何を伝えたいのか。今でもわからないのだが、少しずつ自分らしい記事を書けるようになってきていると思う。

そんな筆者であるが、ここ数週間考えていたことがある。

それは「自分の中で答えの出ていない問いを記事にしてよいのか」とういうことだ。何かメッセージ性のあるものでないと読者に披露してはいけないのではないか、と心のどこかで感じていた。

 

しかし、昨日付の朝日新聞夕刊を読んで挑戦してみることにした。本日の記事は筆者が悩んでいることであり、答えのないものである。そのため読後、スッキリするかといわれるとそれはないと断言できる。あらたにすのホームページに「学生は言いたい!」というフレーズがあるが、今回は1人の学生の悩みを聞いてほしい。

 

さて昨晩、筆者は朝日新聞に掲載された一つの記事を読んだ。「沖縄戦伝えていく、『遠い世代』にも ひめゆり資料館30年、リニューアルへ」だ。ひめゆり平和祈念資料館の開館30年を機にリニューアルをすること、そして新たな展示候補について触れている。

記事の中で登場する普天間 朝佳(ちょうけい)館長の話は一つ一つが印象的だったが、特に以下の箇所である。

― 資料館職員はここ数年、来館者の感想文で気になる表現が目にとまってきた。「戦争時代」という言葉だ。江戸時代や戦国時代のように、今と切り離された過去の出来事になっているのでは、と心配する。

戦争前の学校生活を紹介している展示もある。だが、生徒たちの表情はまじめなものが多い。硬い印象を与えるためか、目をひかなくなっている様子も見られた。職員たちは「伝わらなくなっているのでは」との危機感を抱いた。

若者に対して歴史が伝わらなくなったのではないかと危機感を抱き、展示の一新に取り組む資料館の職員たちの話だ。筆者は後世のために試行錯誤を繰り返しながら奮闘する姿に頭が下がる思いをした。

しかし、それと同時に違和感も覚える。筆者と同世代、あるいは更に若い世代に歴史が「伝わらなくなっている」という表現は正しいのだろうか、と。

 

 

この一年で、筆者は慰安婦に関する二つの資料館を訪れた。韓国にある「戦争と女性の人権博物館」と東京にある「wam アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館」だ。

なぜ訪れたのか。慰安婦問題に関する「事実」が全く分からないからだ。確かに大学に入り、社会問題を知っていく中で慰安婦問題が政治的にどういう立ち位置にあるかなどはある程度理解した。

しかし、だからといって筆者は自分自身が慰安婦問題について知っているかといわれると自信がなかった。慰安婦問題などもとから存在しなかったという主張も耳にする。検索をかけると「慰安婦問題 しつこい」という候補も出てくる。書店には嫌韓本が並んでおり、テレビや新聞でハルモニ(元慰安婦の女性のことを指す)の声を聴いても素直に日本の非を認めきれない自分がいた。

▲戦争と女性の人権博物館前に貼られたメッセージカード。2018年8月20日、筆者撮影。

 

▲戦争と女性の人権博物館前の壁に描かれた絵。2018年8月20日、筆者撮影。

 

韓国・弘大入口から徒歩15分。閑静な住宅街の中に「戦争と女性の人権博物館」はあった。訪れたのは去年の夏ごろでとても蒸し暑かったのを覚えている。

建物までの道沿いの壁にはハルモニや親世代、そして筆者と同世代の若者たちが描かれている。韓国語や中国語、英語で書かれたメッセージカードには「二度とこんなことが起きませんように」と書かれており、「ああ、私はこの場に来たのか」と思った。

建物の中に入ると日本の軍人が書いた日記や慰安婦となった女性たちがどのような生活をしていたのか展示されている。中でもハルモニたちの「この私が生き証人なのに日本政府はなぜ証言がないと言うのですか?」、「たった一言でもいいから心のこもった謝罪の声を聞きたい」という言葉が印象に残った。

 

「wam アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館」には先月足を運んだ。ここでは南北のハルモニたちの生き方を一人500字で紹介している。これまで筆者が知っていた「慰安婦」のイメージは一新され、一人の女性として向き合うこととなった。

慰安婦問題にしても、徴用工問題にしても政治的な立場は別として、人として向き合わなければならない何かがあるのではないかと思った。

 

wam 名誉館長である池田恵理子さんはこう話す。

「新宿で活動していても外国人はよく話しかけてくれるけど日本人はそうではない。日本人の冷たさと外国人のあたたかさを感じる。(中略)たった数人の集まりでも言われたら講演する。」と。

▲wam アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館にて。右奥の展示は慰安婦問題について日本の教科書がどれだけ触れてきたのかがグラフ化されている。2019年5月24日、筆者撮影。

 

正直なところ、この原稿を書きながらも一体自分はどういう方向に結論を導こうとしているのかわからない。ただ、沖縄のひめゆりのこと、二か所でみた慰安婦問題に関すること、どちらからも歴史は伝わってはいる。しかし、情報があふれた世の中で何をどこまで信じてよいのかわからないのである。

「歴史を後世に伝えたい」。私も心からそうと思うし、その役割を果たす一人になりたいと思う。

 

ただ私たち若者はどうすればよいのだろうか。

 これからも模索は続く。

 

参考記事:

6月24日朝日新聞夕刊9面「沖縄戦伝えていく、『遠い世代』にも ひめゆり資料館30年、リニューアルへ」

取材場所:

⓵wam アクティブ・ミュージアム 女たちの戦争と平和資料館

https://wam-peace.org/

②戦争と女性の人権博物館

http://www.womenandwarmuseum.net/contents/main/main.asp

アクセス

http://www.womenandwarmuseum.net/contents/main/main.asp