台湾と中国 ネット規制をめぐる攻防

台湾がネット規制をしていることを知っていますか。それどころかこれまでのネット規制を一段と強めようとしています。

驚かれた方も多いのではないでしょうか。国際政治で見れば、台湾は以前から一貫して米国や日本の側に立ち、自由、民主主義、法の支配、人権などの基本的な価値観を共有しています。しかし、その一方で、中国共産党を念頭に安全保障の視点からネット規制をしているのです。具体的には、BAT(中国の3大インターネット企業:バイドゥ、アリババ、テンセント)など中国企業による動画配信サイトや通信機器などの事業展開を禁じています。

その一方、規制の網をかいくぐって、中国系企業が台湾に触手を伸ばしている現状もあります。バイドゥ傘下の愛奇芸(アイチーイー)という動画配信サイト運営会社は、台湾企業に営業を代行してもらうという形式で、2016年からサービスの提供を開始しています。中国と台湾は同じ言語を用いるということもあって、同社が提供する中国ドラマの数々は人気を集め、現在のユーザー数は台湾全人口の8%にあたる200万人程度にまで膨れ上がっています。さらに、テンセント傘下の騰訊視頻(テンセントビデオ)も同様の手口での上陸を目論んでいるようです。

台湾の蔡英文政権は危機感を深め、従来の規制をさらに強化しようとしています。というのも、昨年11月に実施された台湾統一地方選の際の苦い経験があるからです。政権を握っている民進党は中国共産党と距離を置く姿勢を明確にし、統一地方選では大敗しました。選挙戦では、民進党や蔡総統を貶めるフェイクニュースがSNS等で流され、野党・国民党の候補者はネットを中心に人気を集めたとされています。中国共産党は選挙への一切の関与を否定していますが、蔡政権は外部勢力による世論操作と見て、警戒心を強めているのです。

来年1月には総統選が待っています。台湾の最高指導者を決める選挙だけに、干渉してくるのではないかと警戒し、中国本土発ネット企業の本格的な排除に乗り出しました。蔡政権は動画配信サイトを違法営業として閉め出す方針を決めたほか、監視カメラ、通信機器などを手がける中国企業のブラックリストを7月に公表するとしています。

日本でも夏には参議院選挙が予定されています。現時点で国内の選挙に海外勢力が干渉しているという情報や証拠は一切ありません。しかし、16年の米大統領選や英国のEU離脱をめぐる国民投票へのロシアの干渉に代表されるように、国論が二分される状況になると、国外から世論操作の手がいつ伸びてくるか分かりません。

台湾に倣ってネット企業を選別し、規制すべきなのか。安全保障の観点から考える必要がありそうです。また、我々ネットユーザ一人ひとりも、扇動的な情報を鵜呑みにしたり、拡散したりしないよう注意する必要があります。怪しい情報を見かけたら、情報源を調べ、複数の記事を比較することで真贋を見極めるようにしましょう。

 

参考記事

8日付 日本経済新聞朝刊(大阪14版)8面「台湾、中国ネット企業排除」