日常の中で不安に感じる時間。それは、最寄り駅のホームを歩く時です。以前から、幅の狭さに似つかわしくない利用客の群れをすり抜けながら、「いつ誰が線路に落ちてもおかしくないだろう」と怯えていました。改良工事中の現在は、さらに歩行部分が狭くなっています。人の多い時間帯には、電車を待つ人の列が反対側のホーム際にまで伸び、「黄色い線の内側」のアナウンスももはや有名無実化しています。
昨年9月には視覚障害者が、今年1月にはインフルエンザに感染していた女性が線路に転落して死亡しました。障害者や体調不良の人による被害が多いような印象を受けますが、国土交通省によると、ホームからの転落は2017年度に2863件あり、その66%は酔客です。ベンチなどから突然立ち上がり、そのまま直進して転落してしまう傾向にあるとJR西日本は分析しています。
そうした事故をデザインによって防ごうとする取り組みがあります。京成電鉄の駅のホームに設置されているのは、角度の工夫されたベンチ。線路に向かって並ぶ一般的なものから90度向きを変え、線路と垂直になるように置かれています。酔っ払いの行動パターンから導き出された、転落事故を防ぐ工夫です。
街中に目を向けてみると、人の行動に着目したデザインやレイアウトの変更は様々あります。例えば、コンビニのレジの前に引かれた一本の線。線の後ろで並ぶ人間の習性を利用し、自然に整列させる狙いがあります。東急日吉駅の階段には、駅周辺の名所紹介とともに上った段数に応じた消費カロリーが表示されています。面白がって思わず上りたくなる工夫が施され、健康改善を促します。
花見や歓迎会などでお酒を飲む機会が多い今の季節、酔っ払いのあなたが安全に鉄道を利用することができるのは、デザインや工夫に守られているからかもしれません。そんな誰かの優しさを感じて、アルコールの力を借りずともぽかぽかと温かくなってくるような。もちろん、ほろ酔い気分のままホームから転落などしないように、各自が気をつけたいものです。
参考記事
7日付 読売新聞朝刊(東京12版)5面(くらし)「酔客に優しい仕掛け」