令和と号外

「新しい元号は『令和』であります」

午前11時41分、菅義偉官房長官は首相官邸で248代目の元号が書かれた色紙を掲げた。平成の終わりに寂しさを覚えつつも、新たな時代への期待が募る。

新元号の発表を仙台の実家のテレビで確認すると、私は一目散に駅へ向かった。元号の変わり目は時代の節目。きっと新聞各社が号外を配布するはずだ。

駅前はやはり混雑していた。冷たい雨が降る中、ざっと300人ほどが号外の配布を待ち構えている。警察官と駅職員が雑踏の整理に追われていた。1時間ほど待っていると、号外を手にした地元新聞社の販売員たちがやって来た。

▲雨が降る中、号外を待つ人々。

「号外でーす」。声が聞こえた途端、群衆がその方向に向かって走り出した。「押さないで、押さないで」。警察官の注意が大勢の熱気でかき消される。私の身体も周りの人たちに揉みくちゃにされた。「2列に並んでください。号外は一人1部までです」。販売員の呼びかけで、なんとか混乱は収まった。お目当ての号外を手にすると、皆ニコニコしながら紙面を眺めていた。いつのまにか雨も止み、20分ほどで数束の号外ははけてしまった。

▲号外を手に入れるために人が殺到した仙台駅前では、警察官が群衆を誘導していた。

▲号外を配る販売員の前に続々と人が集まる。

そばにいた地元紙の販売員に聞くと、今回の号外発行部数はおよそ1000部だったという。「普段もこれくらい新聞が売れたらな…」と本音を漏らした。

▲号外を配る朝日新聞の販売員。

▲号外配布直前(上の画像)と号外配布後の様子。配布終了後はいつも通りの光景に戻った。ここまでの画像はいずれも1日、仙台市青葉区の仙台駅前で筆者撮影。

一方、東京でもちょっとしたパニックが起きていた。号外を手に入れるために新橋駅前広場を訪れた友人は「数千人規模の混雑で手に入らなかった」という。隣の有楽町駅まで移動してどうにか号外を受け取れたそうだ。「これから茨城新聞の号外を手に入れるため土浦まで行く」とのこと。号外を集めるのが趣味の友人。混雑に怯んでいる暇はないようだ。

▲号外を手に入れるため数千人が詰めかけた東京・新橋駅前のSL広場。1日、筆者の友人が撮影。

▲千切れた号外が路上に落ちていた。1日、東京・新橋駅前で筆者の友人が撮影。

読売新聞社読者センターに問い合わせたところ、同社が全国で発行した号外はおよそ103万部。うち、東京本社では51万6000部が用意された。また、毎日新聞社は東京本社で1万2000部の号外を用意した。朝日新聞社は「号外の部数については公表を控えている」。地方紙各社も号外を発行したようで、全国各地で「新元号は令和」の一報が伝えられた。なお、日本経済新聞社は「号外を発行する予定はない」とのことだった。

仙台駅前では、新元号を号外で初めて知った人もいた。平成時代はインターネットの普及により、新聞が「オールドメディア(古いメディア)」と呼ばれるようになった。それでも号外を求める人は大勢いる。それは新聞が信頼されている証拠に他ならない。新聞通信調査会の2018年調査によると、情報の信頼度は新聞が100点満点中69.8点、インターネットは49.4点だった。平成のうちに読者離れや部数減が深刻になったが、令和の時代も信頼できるメディアとして私たちに情報を届けてくれると信じたい。

▲手にした号外に食い入る男性。1日、仙台駅前で筆者撮影。

参考記事:
1日付読売新聞朝刊(東京13版)1面「新元号 6基準で選定」
同日付朝日新聞号外「新元号『令和』」
同日付日本経済新聞電子版「新元号は令和(れいわ) 出典は万葉集 6案から絞る」

参考文献:
新聞通信調査会「第11回 メディアに関する全国世論調査(2018年)」
https://www.chosakai.gr.jp/wp/wp-content/uploads/2018/10/2018102705-02.pdf