安心して暮らせる住まいとは
私がボランティアとして活動している「TENOHASI」では、2016年から民間アパートを利用した「個室アパート型シェルター」を運営している。運営資金の不足を補うため昨年12月にチャレンジしたクラウドファンディングでは、100万円以上の支援をいただき、個室を一つ増やすことができた。それでも部屋数は10にも満たない。
私たちが家を選ぶときのように、生活困窮者の住まいも「屋根があれば何でもいい」というわけにはいかない。実際、一度は無料定額宿泊所(以下、無低)に入ったが出てきてしまったという人に何度も会った。無低は社会福祉法に基づいており、無料または低額な料金で利用できるが、問題のある施設もある。
厚労省の無低に関する現行ガイドライン(2015年改定)は、居室は原則として個室とし、居室面積は7.43平方メートル(4畳半)以上、地域の事情によっては4.95平方メートル(3畳)以上と定める。ただし改定以前からの施設を中心に、ガイドラインの居室面積を満たしていない施設や、相部屋、また一部屋をベニヤ板などで区切っただけで天井部分が完全につながっている「簡易個室」も「一定数存在する」(厚労省)のが現状だ。(東洋経済オンライン「生活困窮者を囲い込む『大規模無低』のカラクリ」より引用)
喧嘩になった、物音を立てると怒る人がいる、など入居者同士のトラブルが原因で逃げてきた、という話も聞く。
だからTENOHASIは、一人ひとりが自分の部屋を持ち、入居後も必要に応じて支援を続けるというスタイルにこだわり、目指している。
彼女が笑うのを初めて見た
炊き出しに並ぶ人の中には、生活保護で暮らす人も少なくない。Tさん(40代・女性)もその一人だ。精神的に不安定なことが多く、いつも黒い帽子を目深にかぶってうつむいている。炊き出しの日に同じ公園で行っている無料の鍼灸治療に、患者として通っているTさん。そんな彼女を笑顔にしたのは、ボランティアの中国人留学生・零さんだ。彼女は院生で、インド哲学と仏教学を専攻している。いつも人懐っこい笑顔を浮かべており、日本語も達者だ。患者の受付の手伝いをしてくれている。
その日、零さんはチョコレートを持ってきていた。Tさんは大好物のようで、勧められると「大好きなんです」と喜んだ。表情が崩れるところを初めて見たのでびっくりした。帰るときには、彼女のことを零さんがやさしく抱きしめていた。
ボランティア中、相手にふれようと思ったことは一度もなかった。ホームレスの人々とのコミュニケーションにおいて、言葉を交わそう、少しでも笑ってもらおうと思ってやってきたが、手をにぎる、さするなど、からだをふれあわせるだけでも気持ちは伝えられるのかもしれない。
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