妊娠しながらスマホで法案審議、できるのか

働く人がさらに仕事も私生活も両立しやすい社会とはどのようなものでしょうか。例えば産休の取得後に職場へ復帰しやすいことや、男性でも育児休暇を堂々と取得できること、さらには時間単位で有給を消化できたり職場近くに保育所があったり。どれも本来は当たり前のことなのですがなかなか進んでいません。

それでは、政治の世界で女性がさらに活躍できるためには何が必要でしょうか。諸外国に比べて女性比率が格段に低いのが日本の国会です。少子化や働き方改革を進めるには女性の声を取り入れることが求められます。工夫が必要でしょう。

そのために検討されているのが遠隔投票制度の導入です。妊娠中や出産前後の国会議員が議案への賛否をインターネット上の専用画面で表明するものです。自民党の小泉進次郎厚労部会長や森雅子・元少子化相らが推進しています。

しかし、何かを大きく変えようとするときに付き物のハードルがあります。まず一つが、会議公開の原則を定める憲法57条1項との整合性です。議員がネットで投票するということは、当然ながらその議員は議場にいないわけです。つまり、傍聴席から見えない場所で議員が賛否を表明することは公開原則に反するのではないか、という疑問があります。同様に、「出席議員の過半数」で決すると定めた憲法56条2項にも抵触しかねません。

また、この制度の対象を女性議員に限定することについても意見は分かれます。男性の育休にも認めるべきだとの主張もあれば、病欠などなし崩しの拡大への懸念もあります。どれももっともな理由で、特に憲法上の問題が生じるとなると議論は難しくなるでしょう。

では、国政で活躍することを検討している女性は、「妊娠中に議場以外から投票できないから議員になるのをやめよう」と考えるのでしょうか。妊娠・出産は人生でそう度々あるイベントではありません。妊娠したらゆっくり休んで、元気な子を出産するという大事な役割に集中してもらった方が良いのではないかと筆者は考えます。家族総出で赤ん坊を待ち望んでいるときに、たとえスマホで済ませられるとしても、「〇×法案への賛否について」「○△委員の国会同意について」など日本の将来を占う重要課題の賛否まで迫るのは過重負担ではないですか。

また、法案などへの賛否は、それまでの審議を踏まえて決するべきですから、妊娠した議員はいつでもどこでも審議をライブ中継でき、かつ膨大な資料がすぐに閲覧できる状態でなければなりません。議場にいなくても政府に問いただせる環境も整える必要があるかもしれませんが、それは現実的でしょうか。

現状のままでも問題ないとは思うのですが、みなさんはどうお考えでしょうか。

参考記事:

27日付 読売新聞朝刊14版 4面(政治)「妊娠議員の遠隔投票 賛否」