聞け、沖縄の声

2月とは思えない汗ばむ陽気だった。朝8時、那覇市中心部の久茂地地区で男性がメガホンを手に声を張り上げていた。「24日、投票に行きましょう!」。その隣では、「反対に○を」と書かれたノボリを持つ市民の姿も。沖縄は、例年にない熱を帯びている。

▲投票を呼びかける市民。「反対に◯を」と書かれた赤いノボリは県内各地ではためいていた。16日、那覇市で筆者撮影

今月16日、県民投票を1週間後に控えた沖縄を訪れた。名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立て工事を巡り、沖縄県民の意思が示されようとしている。16日付の県紙「琉球新報」と「沖縄タイムス」は、ともに県民投票の期日前投票について1面で報じていた。県内全41市町村で投票が始まり、初日は11市で1万740人が投票。昨年9月の県知事選初日と比べ2.3倍の投票数だという。県民の関心の高さがうかがえる。当初、県民投票の事務実施を拒否していた石垣市などでも好調な出だしだった。

県民の多くは投票に前向きだが、今回の県民投票には疑問の声も出ている。基地問題は安全保障や国防という国政の問題である。政権側は、地方自治体による投票結果がどうであれ辺野古移設は進めていくとの姿勢を明確に表す。それでも沖縄は、なぜ自らの意思を表そうとしているのか。筆者は県内各地で沖縄の人々の声を聞いた。

 「もし47人のクラスがあるとしたら、『沖縄君』は35人分のランドセルを背負っている状態なんです」

沖縄のある新聞記者は、沖縄の窮状をそう例える。国土の0.6%ほどしかない沖縄県には、日本の米軍専用施設・区域の約70.4%が集中している。しかも沖縄県以外にある米軍施設は87%が国有地であるのに対し、沖縄では76%近くが民間か市町村の土地だ。これは沖縄が米軍に占領され、住民が収容所に閉じ込められているなか、基地が強引に建設されたためだ。本来あるべきではない地域の人々が過重な負担を強いられている。私たちは今も「35人分のランドセル」を沖縄に背負わせているのだ。

では、沖縄の経済は基地によって保たれているのではないか。よく訳知り顔で語る人がいるが、実はそういうわけではない。琉球新報の報道によると、県民総所得に占める基地関連収入の割合は1970年度こそ30.4%だったが、2014年度には5.4%にまで下がっている。基地による恩恵はごく限定的なものになっている。

那覇市のタクシー運転手は「沖縄の景気はいいよ。観光客が増えているから」と好況を素直に喜んでいた。沖縄県によると、17年度の観光収入は前年度比5.4%増である。観光客数は同9.2%増の957万9900人。今、沖縄経済では観光業の伸びが顕著だ。

こうした中、今年の参院選出馬を目指す県内のある野党系候補は「むしろ基地のせいで沖縄の発展が頭打ちになっている」と語る。「小さな島に7割の基地を集中させているのはおかしい。基地が無ければ交通網が発展し、那覇からの移動が便利になっていたはずだ」と強く言い放った。

こうした状況で新たに基地を建設する国の姿勢に疑問や怒りをあらわにする県民は多い。名護市の米軍キャンプシュワブ前で抗議活動をする高齢女性は「基地を引き取れと言うのがおかしい。私たちは基地を危険だと思うから県外への移転にも反対だ。とにかくなくしてほしい」とまくし立てた。

▲米軍キャンプシュワブ前で辺野古埋め立てに抗議する市民たち。16日、名護市で筆者撮影。

沖縄タイムス・共同通信・琉球新報が今月16・17両日に合同で実施した世論調査によると、辺野古移設に「反対」「どちらかと言えば反対」と答えた人が72.8%と、多くの人々が反対意思を示した。県民の意思は固い。

95年の米兵少女暴行事件から四半世紀近く経とうとしている。暴行事件を発端に県民の間で強まった「普天間基地返還」の声は今も果たされていない。むしろ、過重な負担を強いられている地にまた基地が作られようとしているのだ。人口密集地帯にある普天間基地が無くなるのであれば、辺野古移設は一つの転機といえるかもしれない。だが、辺野古移転後の普天間返還がどのような道筋で達成されるかは具体的に示されていない。

▲人口密集地の中にある米軍普天間基地。16日、宜野湾市で筆者撮影。

そもそも、移転先の辺野古でも懸念されることがらが溢れている。埋め立て予定の海域にはマヨネーズ状の軟弱地盤があることが分かった。しかも、その軟弱地盤の改良工事は海外でも実績のないものだという。砂の杭を7万本以上も打ち込まねばならない。完成は何年後になるのだろう。

▲埋め立て工事が進む名護市辺野古の建設現場。建設予定海域の外周は侵入防止のためフロートで囲まれている。16日、名護市で筆者撮影。

筆者も辺野古の埋め立て予定地を実際に目にした。目の前には海が広がる。果たして、津波などの防災については十分に対応しているのだろうか。15年に発表した沖縄県の津波浸水想定によると、名護市には最大で20mの津波が襲来すると予想されていると聞く。一体、どうやって基地への浸水を食い止めるのだろう。

忘れてはならないのは、普天間基地が返還されても沖縄の基地負担は2%程度しか減らないことだ。県内には嘉手納など人口密集地域にある基地は他にもある。「国のことに口出しするな」「沖縄県民は勝手な主張をする」「安全保障上やむを得ない」など、様々な声もある。が、まずは背景に考えを巡らせたい。何故このような過重な基地負担があるのか。沖縄の人々が「愚策」とまで言われる県民投票に何故踏み切ったのか。沖縄の基地は日本国民すべてに関わりのある問題だ。見ないふりはできまい。

最後に、キャンプシュワブ前で抗議活動をしていたあるお年寄りの言葉を紹介したい。

 「私たちは二度と戦争を繰り返したくない。ただ、それだけなんです」

参考記事:
22日付朝日新聞朝刊(東京12版)28面「『みんなで決める』難しさ」
同1面「辺野古工事 規模拡大の計画」
同日付琉球新報ネットニュース「基地なくなると沖縄経済は破綻する?」
同日付沖縄タイムスプラス「なぜ沖縄県は辺野古に反対なの?」
18日付沖縄タイムス朝刊(1版)1面「『反対』に投票67%」
16日付琉球新報朝刊(1版)1面「期日前 知事選2倍超」
同日付沖縄タイムス朝刊(1版)1面「県民投票 期日前始まる」

同1面「水面下90㍍工事 実績なし」

参考文献:

沖縄県観光政策課「平成29年度の観光収入について」
沖縄県「沖縄県津波浸水想定について」