スラックス女子は増えるか

大学生になって最も困ったこと。それは、その日着る服を選ぶことでした。ただでさえ時間がない朝に「今日は寒いから厚手にしよう」「先週着た服と被らないのはどれだっけ」などと、あれこれ考えなければいけません。慣れた今では楽しくこなせるようになりましたが、最初は苦痛でしかありませんでした。中高時代に愛着していたセーラー服を何度懐かしく思ったことでしょう。

一方、友人の中には「制服が嫌で仕方なかった」と言う人もいました。「好きな服を着たかった」「スカートよりズボンが好き」「温度調節が難しい」など、理由は様々。服装の自由を謳歌する姿が私とは対照的でした。

今春から、東京都世田谷区と中野区では女子中学生の制服にスラックスの選択肢が加わります。「スラックス」とは、ズボンのこと。大手制服メーカーによると、個別に取り組む学校は増えていても自治体として行う例は少ないようです。

世田谷区では、カタログから「男子用」「女子用」の明記がなくなります。動きやすさを好む女子生徒や性的少数者への配慮から、区全体での採用を決定しました。

一方、制度が整っても懸念すべきことがあります。スラックスをはく生徒への偏見です。「男子はズボン」「女子はスカート」と言った先入観が定着している中、違和感を覚える人も現れるでしょう。そのような環境では、せっかく他の選択肢が生まれても、人と異なるものを選ぶのは難しくなります。

そもそも制服は必要なのでしょうか。最初から服装を指定しなければ解決しそうな事案です。ですが、機能性や帰属意識の向上など、長年維持され続ける理由もあるようです。

以前、日本の少女漫画を愛読する海外の友人から「日本の高校生に生まれて制服を着たかった」と言われたことがあります。制服姿に憧れを抱いた小学校時代を思い出しました。このような従来の伝統的な制服を好む人の存在も忘れてはなりません。一概に廃止すればいいということではなさそうです。

大切なのは、性別や年齢に関わらず、誰もが好きな服を選べること。最初こそ偏見の目はあっても、スラックスの選択肢を加えることは、どんな服も自然に受け入れられる環境作りの第一歩になるはずです。いずれ学校選びに制服の有無や選択肢の多様性が重視される時代も来るかもしれません。

まずは、「スラックス女子」の定着に期待です。

 

参考:

30日付 朝日新聞朝刊(東京14版)35面(社会)「女子中学生の制服 スラックスも選べるよ」