「本気」の相手に向き合う

ようやく事態が動き始めました。終盤戦へと向かい始めたこの事件、どのような幕切れが待ち受けているのでしょうか 。そして、現在拘束されている二人は無事解放されるのでしょうか。

イスラム教系の過激派組織「イスラム国」とみられるグループに、日本人ジャーナリスト後藤健二さんが拘束されている事件で、日本政府とイスラム国側の交渉の仲介をしているヨルダン政府の情報相による発表が伝えられました。それによると同様に拘束されているヨルダン軍のパイロットと引き換えに、2005年首都アンマンで発生した自爆テロの実行犯リシャウィ死刑囚を解放するというのです。イスラム国側は、後藤さんとリシャウィ死刑囚との交換を求めていましたが、このヨルダン側からアプローチをどのように受け取るのかに注目が集まります。

この事件に関して、一点気になっていることがあります。それはイスラム国の目的が一体何なのかということです。当初、イスラム国側は2億ドル、日本円で約236億円もの身代金を要求していました。しかし、後藤さんと同様に拘束されていた湯川遥菜さんが殺害されたというニュース以降、身代金ではなく、リシャウィ死刑囚の釈放を求めてきています。

身代金の額を引き上げたというわけでもなく、全く違った要求に変更していることから、彼らの目的が定まっていないように感じます。イスラム国の活動資金は、身代金と占領地域から産出される原油の二つ といわれており、原油価格の急落による資金不足を補うことが目的なのか。単純に同志の解放を目指しているのか。それともテロリストの要求に屈しないという国際連携と人質解放やテロリストの処遇に関する国内世論とのジレンマに悩む各国の協力関係を分断したいのか。さまざまな憶測が飛びかっています。リシャウィ死刑囚を日没前にトルコ国境まで移送しろというイスラム国側からの新しい要求もあり、ますます複雑化し、真意の把握が難しくなっています。

筆者なりに彼らの真意を考えてみました。根底にある考えはかなり単純で、「なめるなよ」なのではないでしょうか。このような複雑な戦略は通常であれば、国家間で用いられる手法です。彼らがこのような手法を用いるということは、ただの過激派武装勢力ではない、本当に国家建設を果たすのだということを世界に知らしめようとしているのではないかと考えられます。今回のような卑劣な行為は許されるべきではありませんが、イスラム国の「本気」をうかがい知る契機になっており、人質問題の行方とともに、「本気」の彼らに対する我々の「本気」も試されているのではないでしょうか。

参考記事:本日付朝日新聞(東京14版)1,2,3,8,9,38,39面

同日付日本経済新聞(同版)1,3,7,43面

同日付讀賣新聞(同版)1,2,3,4,7,10,11,38,39面