メディアに惑わされていませんか?
先月末から日韓関係が急速に悪化しています。徴用工賠償判決にBTS(防弾少年団)の原爆Tシャツ問題。両国の政府もメディアも互いを牽制するのに余念がありません。一連の流れを簡単に見ていきましょう。
10月30日、韓国大法院(韓国の最高裁)で新日鉄住金への賠償判決が下されました。直後に河野太郎外相が「日韓の未来志向の関係に努力をしてきたが、極めて心外だ」と韓国の李洙勲(イ・スフン)駐日大使に抗議しました。
今月に入ると日韓の応酬は激しさを増します。
6日、河野外相は韓国の判決を「暴挙」「国際法に基づく国際秩序への挑戦だ」と強く非難。同日、この発言に対し韓国大統領府や外交省が「非常に不適切で遺憾」とコメントを発表しました。
8日には大人気K-POPアイドルグループ・BTSが、9日に予定されていたテレビ朝日の音楽番組への出演を見送りました。メンバーの一人が原爆投下の写真がプリントされたTシャツを着ていたことが原因でした。ただでさえ悪化していた日韓関係の泥沼化は決定的になりました。
13日、東京ドームで開催された同グループのコンサートでは、会場前で反韓デモが起きる始末。韓国メディアはこれを大きく取り上げました。
▲徴用工判決やBTS問題について報じる韓国の新聞紙(16日、ソウル市内で筆者撮影)
このように日韓関係が悪化する中、韓国にいる日本人としてはもどかしい思いに駆られています。メディアが報じていることは事実ではあるものの、表層でしかありません。一般市民の声を聞けば十人十色。日韓両国の報道を見ていると「こういう意味じゃないんだけどなあ」「ちょっと誇張しすぎではないか」。そう思うことが多々あります。
例えば 、BTSの原爆Tシャツ問題を韓国メディアがどう受け止めているかについて。朝日新聞は本日付の朝刊で「韓国の大手紙・東亜日報が12日『判決に文化報復する稚拙な日本』と題した社説を掲載した」と報じました。これだけ読めば「韓国ってやつは日本を貶していやがる」などととらえかねません。
しかし実際に東亜日報の社説を読むと、むしろ日本側の非も見えてきます。社説内では「東京都心では『韓国と断交』を叫ぶ極右団体の反韓デモも行われた。(中略)『死ね韓国』などの刺激的な横断幕と大型の旭日旗を持ったデモ隊が東京都心を2時間以上行進する姿は表現の自由、意見の多様性の次元を超えて、日本に残存している根の深い帝国主義的属性の断面を示す」と、差別主義者による過激なデモを憂慮しています。
このように、報道で取り上げられるものは事実のうちごく一部なのです。
メディアから目を離し街場の人の声を聞けば、初めて知ることが少なくありません。韓国の知人は「韓日間で国交正常化した1965年当時は軍事政権下だった。民意が反映されず、賠償も思い通りというわけではなかった」と不満げに話していました。国家間の取り込めだけでは納得できない部分もあるそうです。
今回の徴用工判決に対して「国の決まりを覆す韓国は有り得ない」との声もネット上で見受けられます。たしかに一つの正論です。しかし、65年の日韓国交正常化の際、経済成長への思惑や冷戦の影響が強く働き、肝心の歴史問題を置き去りにした感は否めません。その背景を見ると韓国側に悔恨が残っていることもある程度理解できます。「植民地支配によって国が奪われ、その詫びも十分ではなかった」。そんな風に映っているのかもしれません。
一方で日本の友人は今回のBTS騒動に対し「(関係が悪化する時期に)メディアがこぞってBTS叩きを盛り上げようとしているのではないかと思ってしまう」と不信感を表していました。過剰な報道に受け手はウンザリし始めているようです。
相手を抑え込んだうえ、批判の声を上げて、強い姿勢を見せることだけで問題解決の道筋を見出せるとは思えません。それではかえって不毛な民族主義やナショナリズムを煽るだけです。
互いの歴史を知ることで、打開策が見つかることもあるはず。こんな時こそ「言論の力」が発揮されれば良いのですが。
参考記事:
16日付朝日新聞朝刊(東京12版)12面「徴用工裁判と『言論の力』」
同29面「Tシャツ・歌詞・・・原爆投下巡る海外との溝」
14日付京郷新聞朝刊「방탄소년단,도쿄돔 공연하던날…한쪽선 “비난”한쪽선”열광”」
12日付東亜日報朝刊社説「법원 판결에 문화 보복하는 치졸한 日, ‘지도국가’ 자격 없다」
9日付朝日新聞(電子版)「BTS、Mステ出演見送り原爆描いたTシャツ着て波紋」
同7日付「河野氏、元徴用工判決『暴挙』韓国批判のトーン強める」
10月30日付日本経済新聞(電子版)「河野外相『極めて心外』徴用工判決で大使に抗議」