でもやっぱりガソリン車が欲しい!

自動車業界の世界王者であるトヨタ自動車は、電気自動車や燃料電池車の開発や部品調達、量産までを一貫して担う専門部署「トヨタZEV(Zero Emission Vehicle)ファクトリー」を10月1日に新設しました。人員200人規模のこの組織は、走行時に排ガスを出さないゼロエミッション・ビークルの開発から量産化までの時間を短縮することを目指しています。

自動車の長い歴史のなか、つい20年ほど前に誕生したハイブリッド車をはじめ、水素を燃料とする燃料電池車や電気自動車、プラグインハイブリッド車など車の動力源の多様化が図られてきました。その背景にあるのは環境への社会的関心の拡大です。また、ガソリンの元である石油への依存度を低減することも含め、グローバルな環境問題に対する自動車業界の姿勢が製品にも表れています。

ガソリンを燃料に用いることはメリットもデメリットもあります。少ない量で爆発的なエネルギーを放出することが可能で、持ち運びや保管が容易である一方、石油の埋蔵量の限界にいつか突き当たってしまう懸念や、多くを中東から輸入するためそのときどきの国際情勢や為替の変動を受けやすい側面もあります。

では、ガソリンの代替としての電気や水素は本当に環境にやさしいのでしょうか。確かに電気自動車や燃料電池車は走行時にCO2を排出しません。またハイブリッド車も従来のガソリン車に比べ燃費が大幅に向上する利点があります。しかし、その電気や水素はどうやって調達するのか。例えば電気ならば燃料を輸入して発電所で発電し、それを長大な送電網を通じて充電ステーションへ配送する。考えてみればそのどの過程にも石油が必要なのです。

「太陽光や風力など再生可能エネルギーが注目を浴びている。しかし、それを維持管理するためにも膨大な石油が必要であり、単にブームで石油から乗り換えるだけでなくその収支を考えてほしい」。筆者が大学で受講しているエネルギー経済に関する授業で教授が述べていた内容です。

言われてみれば当たり前の話です。例えば100の石油を省くために110の石油を使う別のエネルギーへ乗り換えることが妥当なのか。答えは一目瞭然です。こう考えると、走行時という短いスパンのみを考えず、その裏側に隠れているエネルギー収支までもを考えて、「結局電気自動車よりも環境にやさしいガソリン車を開発しました」と胸を張れる企業が現れて初めて、もっと気兼ねなくクルマを運転できるようになるのではないでしょうか。

参考記事:

14日付 読売新聞朝刊13版 4面(政治・経済) 「トヨタ ZEVで専門部署」