今年はアマチュアスポーツの現場における問題に多く注目が集まりました。6月の悪質タックルに始まった日大アメフト部パワハラ問題。女子レスリングの指導者によるパワハラ問題。そして、9月には体操女子でもコーチによる暴力と体操協会からのパワハラが問題となりました。
これらの問題の背景には、従来の日本の指導体制の限界とアマチュアスポーツ選手を支援する統括的な組織の不在があると思います。
皆さんはNCAAという組織をご存知でしょうか。
NCAA(全米体育協会)とはアメリカの大学スポーツにおいて統括的な立場にある自治組織です。20世紀初頭にアメリカンフットボールにおいて重傷者が多発したことを受け、ルーズベルト大統領の要請をもとに発足しました。
現在、NCAAはテレビ放映権を持ち、その収入は莫大な額となるためスポーツの商業化という面に注目が集まりがちです。しかし、その本来の意義は大学スポーツの健全化にあります。
NCAAは週の練習時間の制限やスポーツ特待生に課す学業成績の基準、そして勧誘活動や奨学金に関する規則の作成など学生の安全確保や文武両道の支援を行っています。そして、各大学内には「Athletic Department」という組織があり、NCAAの定めた規則の遵守、徹底を行っています。
現在、日本でも同様の組織(日本版NCAA)を作ろうとする動きがあります。
日本には各大学の運動部を統一的に管理する組織が存在せず、その運営は各部活に任されています。そのため、それらを一つに束ね統一の規則を行っていくことで行き過ぎた指導や過剰な練習時間を取り締まることができるのではないかと思います。
しかし、まず大学内の運動部を統括する組織を各大学内に作らなければうまく機能させることは難しいのではないでしょうか。そして、その組織は大学とは独立した組織である必要があります。
私の大学には全体育会系部活が所属する「体育会」という組織があります。しかし、その組織の構成員は各部活の選手であることが少なくなく、選手が練習と並行して体育会系部活のマネージメント作業も行っています。
現状のまま日本版NCAAを作ったとしても、規則の遵守を既存の組織に任せてしまうと選手の負担が大きくなり規則の徹底不足が起こると考えられます。
もちろん、スポーツ推薦の選手を多く抱える大学では選手自身がマネージメントに関わる場面は少ないでしょう。そのような大学では明確な統一基準の導入はより効果的であると思います。
しかし、全ての大学が恩恵をうけることができる体制が理想の姿です。
大学でスポーツをするすべての選手が、競技に集中するとともに無理なく学業も両立できる。このような理想像が実現できる日が来るまで、日本版NCAAの設立の動きから目が離せません。
参考記事:
1日付 朝日新聞朝刊 13版 36面 (社会) 「塚原本部長ら パワハラ否定」
同日付 読売新聞朝刊 13S版 34面 (社会) 「塚原夫妻 パワハラに反論」
同日付 日本経済新聞朝刊 14版 39面 (社会) 「塚原夫妻「脅す発言ない」」
「大学スポーツの新展開 日本版NCAA創設と関西からの挑戦」晃洋書房