左耳の聴覚を失ったヒロインが明るくたくましく生きる姿を描いた、NHK朝の連続テレビ小説『半分、青い。』。1歳の娘が高熱を出したとき、おたふく風邪によって左耳を失聴した自分自身の経験と重ね合わせ、ヒロインはひどく取り乱します。聴力検査を終えた娘の両耳に異常がないことを告げられ安堵するシーンは、多くの視聴者の記憶に残っていることでしょう。
たとえ難聴だと診断されたとしても、適切な検査によって早めに問題に気づくことができれば、学ぶ環境を整え、子ども達の可能性を広げることができます。厚生労働省研究班の報告書によると、生後9ヶ月以内に補聴器をつけて育った難聴児は、そうでない子に比べて言語能力が高いそうです。コミュニケーション能力が大きく発達し、勉強の遅れを防げることがわかっています。
富山県に住む9歳の女児は、赤ちゃんの時に聴覚の異常を調べる新生児聴覚スクリーニング検査(NHS)を受け、軽度の難聴と診断されました。同じ障害を持つ母親は、授業や友達との会話についていけなかった自身の過去から「自分と同じ思いをさせるのか」と落ち込んだと言います。病院から補聴器の重要性を説明され、10万円以上かけて、娘が3歳の時に装着させました。今、会話のやり取りにほとんど支障のない娘を見て、次のように話しています。
「親の中には、難聴を受け入れたくないという思いや、経済的負担への不安もあると思う。でも補聴器を着けると娘の反応がまるで変わり、明るく育ってくれた。」
ささやき声を聞き取りにくい程度の聴力30デシベル以上の場合を軽度難聴、大きな声なら聞こえる聴力50デシベル以上の場合を中等度難聴といいます。現在、全ての都道府県と指定市に軽度・中等度難聴児向けの補聴器を購入するための助成制度があります。昨年度は全国で2000人以上が助成を受けたとみられ、自治体間で受けられる支援に差はあるものの、一定の支援体制が整っていると言えます。
ただ、早期診断のためのN H Sの費用は数千円で、実費負担でしか受けられない自治体も少なくありません。精密検査のための専門性の高い医師が不足している地域もあります。
さらに、行政と療育機関、医療機関の協力が不十分な自治体もあります。保護者が正しく理解するための支援も重要です。
また、周囲の理解も不可欠です。映画『聲の形』には、聴覚障害をもつ少女が主人公の少年から補聴器を取られたり隠されたりする場面があります。自分がしたことの重さを知った主人公は、その後、罪悪感と向き合うことになります。
聞こえにくい世界がどのようなものか。補聴器がどれだけ生活を支えるのか。一人一人の想像力と理解への啓発も大切です。
早期に難聴に気づき、学び暮らしやすい環境を整える。難聴を「障害」と感じさせない社会に変えていくための、国や自治体の取り組みに今後も注目していく必要がありそうです。
12日付 朝日新聞朝刊(東京12版)26面(生活)「早めの検査・補聴器 子を支援」、「軽度・中等度難聴児の購入費 全都道府県・指定都市で助成」