※思いがあふれて

※今年の「新潮文庫の100冊」は、思いがあふれて100冊以上になっております。

最後の最後に小さく付け加えられたこの文言に、クスッとしてしまいました。

今日の朝日新聞に掲載された全面広告は、「新潮文庫の100冊」。新潮文庫から100冊選びだす文庫フェアです。1976年から始まったこの文庫フェアには、「こころ」「人間失格」などの不朽の名作から、「夜のピクニック」「いなくなれ、群青」など最近のベストセラーまでの幅広いジャンルの文庫が選出され、テレビや広告などで宣伝しています。

また集英社でも、2008年に行われたキャンペーンの限定企画として、「こころ」や「人間失格」など4作のカバーイラストを「週刊少年ジャンプ」の人気作家らが担当するなど、若者に向けた企画を催して話題になりました。まるで漫画「デスノート」の主人公のようになった「人間失格」の主人公、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

新潮社では一変して、あえてシンプルなカバーイラストで名作を売り出して話題になりました。私の大学の生協でも、古風な浴衣のような装丁の爽やかな文庫本が並んでおり、既読の物でもつい手にとってしまいます。

目に鮮やかな黄色い背景に、海辺で本を読むキャラクターと可愛らしいカニのイラスト。そして、100冊に選ばれた数々の名作の思い出を、一言一言並べて紡いだ詩的な文章には、心癒されるばかりです。「老人と海」や「太陽の塔」、「1Q84」や「残穢」……。これまで読んできた何冊もの思い出の数々、今の私の心の材料になってきた小世界の数々を想起させる一言一句に湧き上がってくる感情を表す言葉は、どうにも思いつきません。紙面いっぱいに詰め込まれたこの100冊、その一冊一冊に作者が込めようとした思いにもまた、名前のつけようのない感情があふれていることでしょう。共感できて仕方のないものもありました、逆立ちしても理解できないようなものもありました。なにも本だけで育ってきたわけではないですけれど、今まで手に取ったたくさんの本、そこに出てくるたくさんの人生を知っていったからこそ、今の自分があるのだと思っています。

本当であれば、オウム真理教に関連した記事や、大雨に関連した記事を書かなければいけなかったのかもしれません。そのことを取り上げた記事は、3社の新聞朝刊夕刊にたくさん掲載されていました。たぶん明日も明後日も、きっとしばらくの間は取り上げられ続けることでしょう。もちろん、オウム真理教や大雨のことをないがしろにしたいわけではないのです。けれどきっと、こういった事柄はもっと詳しいメンバーが、明日でも明後日でもちゃんとした記事を書いてくれることでしょうと期待して、今日しか掲載されないであろう全面広告について書かせてもらっちゃいました。

皆さんの100冊はいったいどれでしょう。100冊以上になってしまっても大丈夫です。

参考記事:
7日付 朝日新聞朝刊(大阪10版) 5面(全面広告) 「新潮文庫の100冊」