大学のゼミで教育と経済学の関わりについて研究しています。大学教育を投資として捉え、高卒との経済学的な相違点を探ったり、幼児教育に関する政策を研究したりするなど、一見すると経済学部っぽくない研究も行っています。
5日、政府は成長戦略や財政再建の目安などを示す経済運営の指針「骨太の方針」の原案を公表しました。人手不足を受けて外国人材の受け入れ拡大や、基礎的財政収支の黒字化の5年延期など多くの項目が並んでいます。
なかでも注目したのは高等教育の負担軽減策です。原案では、年収380万円未満の低所得層の学生の授業料を減免するほか、給付型奨学金の拡充を2020年度から進めるとしています。現在、政府で進んでいる議論では、これとは別に幼児教育の無償化も含めた教育負担の軽減策を検討しています。これは昨年の衆院選で与党が教育無償化を訴えたことに起因していますが、当初は筆者も肯定的に受け止めていました。財源は必要になるけれど、多額の費用がかかる教育負担を軽減することは意義深いと感じていました。
しかし、全員が対象になる一律の無償化には問題点もあります。高所得者は、無償化で浮いた資金を子供の追加的な教育支出、例えば塾やピアノなどに充てる可能性があります。一方、低所得者は浮いた分の多くを生活関連に充てざるを得ません。その結果、親の所得による教育格差をさらに広げてしまう可能性があるからです。それでは元も子もありません。また、多額の財源もやはり無視できません。もし一律の無償化を実施すれば来年10月の消費増税で得られる分のうち、借金返済に充てられるはずの約4兆円が吹き飛びかねません。
もちろん、低所得者層に限った負担軽減策には賛成です。しかし、聞こえの良い教育無償化の裏にはその趣旨とは逆の効果を生んでしまう懸念があることを肝に銘じながら、慎重に議論してほしいと感じます。ただ、学生目線からは無償化してくれれば助かるな、というのがホンネですが。
参考記事:
6日付 朝日新聞13版 朝刊27面(社会)「年収380万円未満に高等教育費を支援」