皆さんは、「ナクバ」をご存知ですか。アラビア語で大破局を意味します。70年前の今日は、イスラエル建国によりパレスチナ人約70万人が郷土を失い、難民の境遇に追い込まれました。今なお続く悲劇が思い起こされる日として、パレスチナ人の心に深く刻まれています。
エルサレムをめぐって、対立するイスラエルとパレスチナ。イスラエルはユダヤ人によって建国され、パレスチナは多くがイスラム教徒であるアラブ人が国家樹立を目指してきました。問題になっている東エルサレムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の三つの宗教の共通の聖地です。第三次中東戦争でこの東エルサレムをも占領したイスラエルは、現在はエルサレム全域を支配しています。ユダヤ人を積極的に入植させ、壁を作って占領の既成事実化を進めてきました。
国際社会は、エルサレムの帰属は両者の和平交渉で決めるべきとしてきました。米国の歴代政権もまた、「2国家共存」に配慮し、大使館は地中海に面したテルアビブに置いてきました。しかし、トランプ氏は就任時から一貫してイスラエル寄りの姿勢を堅持。ついに14日、在イスラエル大使館をイスラエルの首都と認定したエルサレムに移転しました。背景には、今年11月の米中間選挙でユダヤ人のみならず親イスラエルのキリスト教福音派の支持を確実にしたい思惑があります。
パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区では、パレスチナ人による抗議デモが始まりました。これに対し、イスラエル軍は実弾や催涙弾を放ち、2千人以上が死傷したとみられます。一国の大統領の決断により、人々の対立がさらに深まり、命が失われる現実に悲しみと怒りを覚えます。
先日、私はフォトジャーナリストの安田菜津紀さんとパレスチナ刺繍プロジェクトを進める「パレスチナ・アマル」代表・北村記世実さんの講演会に参加しました。2月にパレスチナを訪れた安田さんは、モスクや教会が並立している街並みを見て、住民も同じ空間で共存できないか、というもどかしさを感じたと話していました。
パレスチナ人が通行できない場所が町の至る所にあることや、失業率が44%にのぼり医師などの資格を持っていても職に就けないといった人々が抱える無力感などを伝えてくれました。空爆や銃撃の爪痕が残る建物の写真や、戦争・紛争とともに育った子供たちの不自由さを嘆く親の声を知り、その凄惨さを肌で感じました。
極右勢力を含むイスラエルの連立政権や米政権の身勝手な行動、そして米大統領に対して非難以上の行動をとれないアラブ諸国。そうしたなかでパレスチナは厳しい局面に立たされています。加えて、トランプ大統領は、医療や教育を提供し、食料を配布する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の拠出金の半分以上を凍結することも表明しました。
講演会の中で一番印象に残ったのは、涙を拭う一人の女の子の写真でした。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA) が運営する学校に通うその子は、つらい境遇に身を置きながらも、多くの命を奪った東日本大震災の犠牲者を思って涙を流していたといいます。この学校では子供たちが、震災の追悼のため、毎年、日本とパレスチナの国旗を合体させた凧を揚げてくれているようです。
日本を思ってくれている彼らのために、今度は私たちが返せることはないだろうか。
静かに、でも力強くそう語った安田さんの言葉が心に刺さりました。
日本でも、パレスチナ子どものキャンペーンのNGO活動や、ガザ難民の女性を支援するパレスチナ刺繍プロジェクト「Sulufa」のクラウンドファインディングなどが展開されています。まずは、いま世界で起こっていることを知り、思いはせてみる。そして、平和を祈りながら、できることから始めてみませんか。
参考記事:15日付 各紙「米大使館 エルサレム移転」関連面