想像してください。もし、何年も離れていた自分の家に久しぶりに帰ると、自慢の庭が踏み荒らされ、玄関のドアも破られていたとしたら。そしてそこを野獣が我が物顔で歩き、フンや足跡が残していっていたとしたら。2017年の社会では想像しづらいことかもしれませんが、このようなことが現実に起こっている場所が日本にあるのです。
東京電力福島第一原発事故後、6年以上も住民不在が続いた福島県沿岸部の街で、獣害が深刻化しています。県の生息数試算によると、2009年度に県内で3万頭余りだったイノシシは僅か5年余りで5万頭近くまで増加しています。そして驚くべきことに、何らかの対策を講じなければ2019年には13万頭まで増加すると言われています。
イノシシなどの出没は全国的に増えていますが、福島のイノシシは人を知らずに育ち、「すみか」として街に定着しているという点で大きく異なります。今街にいるのは街で生まれ育った個体。人に追われた経験もなく、怖がりもしません。県は計画捕獲を開始したり、ドローンで駆除実験を開始したりするなど懸命に策を打ち続けていますが、死骸の焼却処理が追いついていないなど、まだまだ課題が山積みです。
この記事では、冒頭のような変わり果てた自宅の姿を見て「家は取り壊すしかない。帰還する気持ちも萎える」という住民の声や、町の担当者の「住民帰還が進んでいない状況では、十分な対策が難しい」という声が紹介されています。街が抱えるジレンマは複雑であり、すぐには解決できるものではありません。しかし、こうした問題は、現状に目を背けずに向かい合い続けることでしか解決できません。街が再び元気になるにはどうすればいいのか、諦めずに模索し続けてほしいものです。
参考記事
読売新聞朝刊(京都13版)28面(特別面)「故郷を荒らす獣、帰還防げ」