暮らしやすい社会を作るには?

 65歳以上の高齢者の7人に1人が認知症である今の社会において、認知症の人が起こす事故は無視しきれないものとなってきています。認知症の人が絡んだ鉄道事故は2014年に29件、認知症の人が車を運転して起こした事故は2013年からの3年間に少なくとも216件あります。過去には愛知県で2007年に起きた鉄道事故で電車にはねられた男性の家族に対し鉄道会社が約720万円の損害賠償を請求した裁判もありました。この裁判では最高裁が請求を棄却しましたが、介護の状況次第で家族が責任を負う可能性もあるという判断が下されています。認知症を患う家族を持つ人々にとって、「高額の賠償責任を問われるかもしれない」今の状況が大きな負担になることも想像に難くありません。

 認知症の高齢者が事故やトラブルで損害賠償を求められた場合、本人や家族を経済的に支援する――このような画期的な取り組みを行おうとする自治体が出てきました。神戸市では認知症の人が交通事故や暴力行為などを起こした場合、被害弁償のための給付金を家族らへ支給したり、被害者に直接給付したりする条例素案をまとめました。また、神奈川県大和市でも11月、認知症の人が第三者に負わせた損害を賠償するため、市が契約者となって民間の個人賠償責任保険に加入しました。

 高齢化社会において、どのような人でも暮らしやすい社会を作ることが社会の中でますます重要となってきています。誰もが向き合う可能性が高い「認知症」に対しこのような措置が取られることはとてもいいことだと思います。しかし一方で、事故を起こす危険のある病気が他にあるのは事実です。「認知症だけ特別扱いをしていいものか」という声もうなずけます。

どういった仕組みを作れば、暮らしやすい社会を作ることができるか。まだまだ試行錯誤は続きそうです。

 

参考記事

 

8日付日本経済新聞朝刊(京都14版)39面(社会)「認知症で事故 行政が支援」