【特集】それでもEVが本命なのか

 昨今の環境問題への関心の高まりを受けて、各国政府は自動車の排ガス規制の強化を進めています。それだけではなく、現在の主流であるガソリン車の販売を禁止することを発表している国すらあります。

 環境規制という大きな逆風を受けても生き残るため、自動車メーカー各社は新たな挑戦を始めています。その代表例がEV(電気自動車)です。従来のガソリン車と異なり排気ガスを出さない上に走行音が非常に静かなのが特徴です。国内メーカーで最も積極的なのが日産自動車で、EVの「リーフ」をフルモデルチェンジして発表しています。1回の充電で走れる航続距離が従来の280キロから400キロに延び、デザインも従来の独創的なものからより「一般的」なものへ近づきました。

 また、今までEVにあまり積極的でないとされてきたトヨタ自動車も、2人乗りや4人乗りの小型EVを展示しました。商用トラック大手のいすゞ自動車は、未来の小口配送を想定した先進的なデザインのコンセプトカー「デザインコンセプトFD-SI」を公開しています。

 しかし、「報道で大きく話題になっているが、EVはさほど展示されていない」というのが率直な印象です。展示の多くが従来のガソリン車またはハイブリッド車なのです。大きく期待されているEVですが、さらなる普及には壁があります。

 前述の航続距離はガソリン車に比べると短いですし、なんといっても室内の空調管理が難点です。ガソリンエンジンを搭載した車は、室内を温める暖気をエンジンで発生した高温の空気を活用していますが、EVにはそれができません。暖房するには電気で空気を温めて吐き出すほかありません。その結果、電気を消費してしまい航続距離が減ってしまうのです。筆者は日産の企画に参加して冬場にリーフを1か月お借りしたことがありましたが、運転中はかなり寒かった記憶があります。会場にいた日産の担当者も「航続距離は伸びたが空調はまだまだなのが正直なところ。実際、ノートe-Powerの方が売り上げは良い」と打ち明けてくれました。

 また、電気自動車をスズキやスバルなどとともに開発するトヨタも、EVにだけ注力するのではなく、水素で走るFCV(燃料電池車)の開発も並行して進めています。

 マツダも、ガソリンの燃焼方法を変更した「究極のエンジン」と呼ばれる新エンジンを18年度までに搭載することにしています。これにより、今までリッター24キロ程度だった「デミオ」の燃費は32キロへと大きく伸びるようです。EVの普及予測が高まってもガソリンエンジンへの需要は当面は続くと見込んでの経営判断です。また、EV市場をリードしてきた日産も、完成車の不正検査事件をきっかけに新規出荷を中止しています。今後の状況によっては市場のシェアが低下しかねないのです。

 EVが注目を浴び、本活的な開発競争が始まってから間もないこともありますが、展示されている車を見るかぎり、EVが自動車業界を席巻してガソリン車が廃れるのは、かなり先の話ではないでしょうか。さきほど挙げた航続距離や空調、さらには充電スポットなど技術的な観点からEVはまだ買い時ではないと感じています。

 人が思うことは人それぞれ。明日で東京モーターショー2017は最終日。まだ行かれていない方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。きっと皆さんの視点から浮かび上がってくる何かがあるはずです。