みんなはできるのに自分にはできないことがたくさんありすぎて、病気のせいにしていいのかただの甘えなのか、わからない。
双極性障害を抱える友人の言葉です。双極性障害というと何か生まれついた障害のような感じがしますが、少し前までは「躁うつ病」と呼ばれていました。気分が高揚し攻撃的になったりハイテンションになってしまう「燥」の状態と、反対に、無気力になったり気持ちが過度に落ち込んでしまう「うつ」の状態が波のように繰り返される精神障害です。生活の中での過度なストレスが主な原因と言われています。
うつ病という言葉が世間に浸透するようになってずいぶん経ちました。最近では「現代型うつ」と呼ばれるような新しい形態も増えてきています。
言葉にはよく聞くけれど、それってメンタルが弱い人がなる病気でしょう?
と、思っている方、多いのではないでしょうか。実は違うんです。双極性障害もうつ病も、メンタルが弱い人がなる病気ではなく、メンタルが弱くなってしまう病気なのです。
精神的なものが原因の病気と聞くと、本人の気の持ちようだからと認識されがちです。けれど患者本人の身体の中では、とんでもない異常が起きています。
うつ病患者の身体の中では、コルチゾールと呼ばれる物質が慢性的に出ているそうです。この物質はストレスに対抗する作用もありますが、神経に対する毒性も持っています。コルチゾールによってダメージを与えられた脳神経は正常な判断ができなくなり、思考の切り替えや発想の転換ができなくなってしまうのです。
正常な状態であれば、ストレスフルな環境にあったときに誰かに相談したり、その場を離れたりする判断ができるのですが、うつ病、またはうつ状態に陥るとその判断ができなくなってしまいます。
例えば職場などで人間関係がうまくいかなくなったとき、「わたしのことを嫌いな人もいるよね」、「お互い様だな」というような思考の切り替えをすることが困難になります。最もわかりやすいところならば、「死んでもいいや」という思考になってしまうということ。正常な状態であれば、人間は自ら命を絶とうとはしません。
また、うつ病、うつ状態になると脳の神経細胞の成長を促す物質「BDNF」が不足し、次第に感情のコントロールをつかさどる脳の機能が低下していきます。細胞は代謝されるので、新しい細胞が成長しなくなれば脳は次第に死んでいきます。重度のうつ病では、薬物治療でも修復できないほどダメージを受けているケースもあると聞きます。気合で脳は治りません。
加えて記事では、60歳より前にうつ病を発症した人は、そうでない人に比べて認知症になるリスクが高いという海外の研究報告を報じています。脳がダメージを受けているのだから、うつ病経験者の認知症リスクは十分にうなずけます。
さて、うつ病や双極性障害などがどのようなものか、おわかりいただけたでしょうか。理屈を並べ立てると、医療の分野でもあるので、かなりなじみ薄く難しい話かもしれません。要するに、ストレスという目に見えないものが原因でも、身体の中では脳や神経が実際にダメージを受けてしまっているということなのです。
人間は、大けがなどを実際に負ったりしなくても、心が消耗しすぎると病気になるようにできているのだと思います。
何度も繰り返すようですが、一度ダメージを受けた脳はそう簡単には修復されません。うつ病は重症化すると、一生つきまとう障害になります。そんなことになる前に、仕事や学校などで過度にストレスを感じていて、体調にも異常をきたしていると自覚がある場合は、すぐに病院で治療を受けましょう。
先日あらたにすでも、つらい環境から逃げる強さをテーマに記事を書きました(11日 自分の足で生きていける強さを)。向かってくるストレスや困難すべてに立ち向かえるほど、人間の心は強くありません。限界だと感じる前に、逃げましょう。誰かに迷惑をかけたっていいのです。
長くなってしまいましたが最後に、この記事で、先に書いたようなうつ病などの精神障害に対する世間の認識が、少しでも変わればと思います。
うつは病気です。
参考記事:
14日付 朝日新聞朝刊(大阪10版) 25面(生活) 「1分で知る うつ3 治療は認知症予防にも」