「共謀罪」 取り調べの可視化義務付けを

 先月からシーズン2が始まったテレビドラマ「緊急取調室」。録音・録画という可視化設備の整った警視庁の特別取調室を舞台に、取り調べの専門チーム「緊急事案対応取調班(通称・キントリ)」が、一筋縄ではいかない容疑者たちとの心理戦を繰り広げるというストーリーです。設定が新鮮で、シーズン1から視聴していました。

 2016年5月に取り調べの可視化義務付けなどを柱とする刑事司法改革関連法が成立したことで、「キントリ」の世界もより現実味を増してきました。改正刑事訴訟法に基づき、裁判員裁判など刑事事件全体の3%について、19年6月までの可視化全面実施が義務化されています。その3年後には対象を拡大することが検討される予定です。

 現在国会で審議中の「共謀罪」でも、犯人を仕立て上げるような違法な取り調べを避けるため、録音・録画を義務付けるべきだという意見が出ています。これを受け、与党と日本維新の会は今月11日、法案付則に「可視化対象の拡大の際にテロ等準備罪を加えるかどうか検討する」という点を盛り込む修正に合意しました。

 記事では、2003年の鹿児島県議選をめぐる冤罪事件「志布志事件」の元被告らの証言と懸念の声を取り上げています。元被告の一人、中山信一さん(71)は「ともに逮捕された妻が自供したので罪を認めるように」と迫られた、と証言しています。後にそれは取調官の嘘だったことが発覚しました。中山さんは「一度決めれば、あらゆる手段を使って、描いた筋書き通りに『犯人』を仕立てる危険がある」と話し、「共謀罪」での強引な捜査の恐れを危惧しています。

 一度犯人扱いされてしまうと、社会的な地位や信頼を回復するには時間がかかります。冤罪を防ぐため、「共謀罪」も取り調べ可視化対象に加えるべきです。一方で、供述頼みにならないように、証拠確保のための捜査手段の整備をどうしていくのか。政府はこの法案で「通信傍受はしない」と説明しています。通信傍受や司法取引制度の可否ですが、条件を細かく設定し、運用状況を外部がチェックするとしても、やはり冤罪発生や「警察国家」への懸念はぬぐえないのでしょうか。

 国会で激しい攻防が続く中、最終的に「共謀罪」の形をどう固めていくのか。賛成と反対、両方の意見に耳を傾けながら、私たち市民も法案の隅々までを注意深く見ていく必要があります。

参考記事:
14日付 朝日新聞(東京14版)31面
「『共謀罪』少ない物証、供述頼みに?」「問う『共謀罪』 言論人から」