ポピュリズム(populism)、何かと話題にされるこのワード。この数年で反原発運動やシールズ(SEALDs)の学生運動、英国のEU離脱問題、米大統領選挙、オランダ総選挙といったポピュリズムが関連した重大な出来事が続いています。これらに共通していることは、政治に対して人々が自分の考えを打ち出したという点です。
フランスの有名な哲学者ジャン=ポール・サルトルが「人間は主体的に自らを生きる投企なのである」と言ったように、人々が自らの責任において自分の立場を表明する、つまり投企することで社会参加していると言えます。しかし、ポピュリズムは悲観的な語、あるいは否定的な意味合いで使われる場合が少なくありません。
上記に挙げた五つの現象は、大きな抗議デモに発展したり、他の国の政治運動に影響を与えたりと、大きなものばかりです。ただ、これらの問題の中での議論は多分に情緒的かつ論理性に欠けていたものだった印象が拭えません。放射能への恐怖意識、70年以上にわたって構築されてきた内向な平和論への固執、EUに搾取されているという不平等感、多様性の名の下に必要以上の言葉狩りが横行する既存の政治(政治的正しさ)への反感、伝統的な文化が変容していく悲愴感。そんなマイナス感情が、大きな視野を持った建設的な議論を邪魔していたのではないでしょうか。
結果として人々が本来望んでいない方向に物事が進んでいると感じます。4月23日に控えたフランス大統領選でも、その傾向は見られます。
現在支持率トップは約24パーセントで極右政党である国民戦線のマリーヌ・ルペン氏。彼女は父親が作ったナチズムに傾倒した極右政党を作り変えました。過激な主張を取り除き、多様性に富んだ保守政党に衣替えさせたのです。シングルマザーとして政治世界を生き抜き、LGBTを容認し、経済要因やテロ対策の言葉を使い論理的に移民排斥を唱える。彼女の発言がパリ同時多発テロで難民や移民に対して否定的になっているフランス人の心を掴んでいます。
ただ、ここで忘れてはいけないのは国民戦線が極右政党と呼ばれてきた理由です。一見まともな主張の中に反EUという、反多様性的な主張が紛れています。第二次大戦後のヨーロッパが協調の道を歩む中で生まれたEUという理想には、欧州諸国の可能性だけではなく平等的な世界秩序を構築する希望が含まれました。絶対的な平和がないとしても戦争を減らす努力をしていくという希望です。その希望が事実として不確かな「難民にテロリストが紛れている」といった恐怖心で壊れてしまうことになれば、我々の平和への願いさえも失われてしまいます。
今回のフランス大統領選は、英国のEU離脱(Brexit)に次ぐ、Frexitとやゆされます。選挙結果がEUの今後を左右することは事実です。大統領が誰になったとしても、一時的な感情で将来への希望を壊さないことを期待せずにはいられません。
参考記事:
12日付 読売新聞朝刊(東京14版)7面(国際)「テロ対策 政府に不満」
NHK NEWS WEB 「フランス大統領選 2017」 ルペン氏の維持率を引用