分断と暴走のその先は

 トランプ氏の暴走はどこまで続くのでしょうか。テロ対策の名目で出された新たな大統領令により、混乱や反発が世界で広がっています。今回の措置として、国民の多くがイスラム教徒を占める中東・アフリカ7か国の国民の、90日間の入国停止が発表されました。ビザの取得者や永住権の保有者も例外ではありません。さらに入国審査を厳格化するまでシリア難民の受け入れを停止するほか、すべての国からの難民受け入れを120日間停止することも決定しました。

 テロ対策は世界共通の喫緊の課題です。けれどもイスラム教徒をテロ過激派と結び付け、難民や移民を一括りにして切り捨てる手法は全く理解できません。反米感情を高め、IS(イスラム国)の誘い文句に利用されてテロの温床となる危険性も孕みます。さらにトランプ氏はTwitter上で「拘束されて尋問されたのは、32万5千人のうち、わずか109人だけだ」と主張しました。少数者の声を無視し、その人権を軽視する姿勢に危うさを感じます。

 就任以来、次々と出される大統領令。法律と同等の効力を持ちますが、議会が反対する法律を作って対抗したり、最高裁判所が違憲判断を出すことで無効にしたりすることも可能です。30日にはニューヨークなどの15の州とワシントン特別区の司法長官が大統領令が違憲だとする声明を発表し、連邦裁判所は国外退去の見合わせを命じる仮処分も出しました。今朝の天声人語には、三権分立が機能することへの期待とその重要性が説かれています。しかしそんな願いとは裏腹に、入国制限に反旗を翻したサリー・イエイツ司法長官代行を解任するというニュースも飛び込んできました。

 権力に対抗するには、もはや個々の力を総動員するしか手はないのかもしれません。国内外の企業では、トランプ氏の政策に異議を唱える声明が次々と出始めました。スターバックスは、今後5年間で1万人の難民を雇用する計画を立てていると発表。またアップルや楽天も移民労働者を保障したり、難民をサポートしたりする取り組みを打ち出しました。

 トランプ氏は白人労働者の声を代弁しても、多くの民意を反映して政治を動かそうとはしていません。オバマ前大統領は「私たちの民主主義は建物でもなく、記念碑でもありません。それは、あなたです。」という言葉を残しました。支持、不支持を巡って批判しあうのではなく、どこがおかしいのか、どんな政策が必要なのか。多様な立場を尊重し、対話を重ねながら、団結して声を上げ、訴え続けていく。人々の大きなパワーが求められています。

 

参考記事:31日付 各紙「米大統領令入国禁止」関連面

ハフィントンポスト オバマ大統領、ホワイトハウスを去る 「民主主義は、あなたです」http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/21/story_n_14298776.html