天下りあっせん その当たり前はおかしい

 「何かコネがあったらな…」。就職活動中に何度そう思ったことでしょう。夢のような話を考えていても仕方ありません。地道に築いた人脈で、多くの社会人から話を聞かせていただきました。しかし、この人脈はいわゆる「コネ」ではありません。話を聞かせていただくと言っても個人的なつながりで、人事権には関係していないからです。

 「天下りあっせん」と聞いて、羨ましいと思ってしまいました。まさに就活中に夢に見ていた「コネ」だからです。今日は文部科学省が元幹部の再就職を組織的にあっせんしたとする問題を取り上げます。

 この問題は、文科省の元高等教育局長が2015年8月に退職し、10月に早稲田大学の教授に就任した際に、文科省によるあっせんがあったとされるものです。政府の再就職等監視委員会の調査によると、元局長が在職中に早大への再就職を決めていたことや、文科省の人事課が大学側に元局長の履歴書を送っていたこと、調査に対する隠蔽工作など、組織的に関与した疑いがあります。

 ここで再就職あっせんなどを規制する国家公務員法を見ていきます。省庁は企業に対して、職員やOBの名前や職歴の提供、職務内容や待遇など求人情報の照会といった再就職あっせん行為を禁じています。また、在職中の求職や再就職者による依頼なども禁止です。在職中から利害関係のある企業に再就職すれば、その企業が有利になるような官製談合の温床になりかねないからです。

 今回の場合、元局長は大学や大学院などを所管している高等教育局の所属でした。補助金の配分や学部の設置認可などに権限を持っている部署です。教授に就任した早大のホームページには「文部科学省等の各種事業関係に関する連絡調整等への関与(大学への助言)を行う」とされています。これでは、互いに甘い蜜を吸おうとしている関係と言うほかありません。

 このような天下りが役所の常識となっていたならば、その常識は一般人からは到底理解できません。一方で、「文科省だけではなく、どこでも同じようにやっているんだろう」という諦めさえあります。膿が出きっていないことがわかりきっているからでしょう。しかし、だからと言って、見過ごすわけにはいきません。省庁と一部の大学や企業が蜜月関係というのでは、監視すべきものを放し飼いにしているも同然です。また、どこの世界であっても、厳しいルールを守っている人がバカをみる制度はおかしいと思います。官僚の当たり前を徹底的に見直すことが欠かせません。

参考記事:
20日付 各紙朝刊「文部科学省 天下りあっせん問題」関連面