誰のため、何のための入試改革?

 11月も残すところあと2日。師走を過ぎて年が明ければ、あっという間に受験生にとって大きな関門ともいえるセンター試験の季節がやってきます。

 この共通試験がいま、大きく変わろうとしています。文部科学省は2020年度から現行の大学入試センター試験に代えて、表現力や思考力を重視した新テストを始める方針を固めました。今月上旬には、新テストで導入する国語の記述試験案を示しています。発表されたのは80字以上で答える問題と4080字の短文で難易度を下げた問題の2種類。志望大学が指定した問題の一つ、または両方を答えるというものです。また前者を大学が、後者はセンターが委託した民間業者が採点を担当することになるようです。

 今朝の日本経済新聞には、東京大学・南風原理事の見解が紹介されていました。1問だけの共通問題のために特別な採点態勢を用意するより、個別の大学や学部のニーズに合った内容、数の記述式問題を出題する方がより効果的であると主張しています。また統一性や効率を重視するあまり、機械的、表面的な採点に陥らないかという心配にも触れ、選択式でも記述力を問うことは可能だと言及しています。

 筆者も数年前にセンター試験を経験しました。確かに現行のセンター試験は、知識暗記型であり、特に国語では技術的なスキルが役立つ点は否めません。だからこそ変革は必要なのだと思います。それでも、記述式には大きなハードルが伴います。たった数十文字で思考力を十分に判断できるとは思えませんし、大学側の負担の大きさや採点基準の不透明さも指摘されています。

 それ以上に筆者が懸念しているのは、受験生に混乱が及ぶことです。問題方式を複雑にすれば、受験生の負担が大きくなることは避けられません。多くの国公立大学の個別試験では、レベルの高い記述問題や、小論文、面接が課されています。記述式にこだわらず、選択式の出題でも内容をより多様化することで思考力の基礎を問う。次のステップとして個々の大学が望む人材を独自の問題や手法、採点で選抜する。この方法で十分ではないでしょうか。また、浪人生への配慮や措置についてもしっかり考えてほしいと思います。自身も浪人を経験しましたが、現役時と浪人時でセンター試験での教科数や内容の変更があり、不安が大きかったのを覚えています。

 誰のための、何のための改革なのか。具体的な像がなかなか見えてこない、そんな印象を受けます。より多くの大学に利用してもらうことで高校教育を変えるといっても、大学の自主性や独自性を尊重しながら変革を起こしていくべきだと思います。昨今はトップの国公立大学で推薦入試が導入されるなど、大学側も人材選びを工夫しています。大切にしてほしいのは、当事者である教育者や学生の声なのです。そして実施方法が決定した際には、受験生に向けて不安を緩和させる細やかな情報発信を心掛けてほしいと思います。

 

参考記事 28日付け 日本経済新聞 13版 22面(教育)「大学入試新テスト記述式案」