東日本大震災が起こった3.11からすでに5年の月日が流れました。これだけの時間が過ぎたのですっかり震災前の状態に復興出来たのかと思いきや、24万トンもの災害廃棄物が未だに処理されておらず、まだ18万人もの人々が避難者生活を送っているのが現状です。1995年に発生した阪神淡路大震災でさえ完全復興するのに約10年かかりました。震災前の日常や景観を取り戻すのがいかに大変なのか、身に染みて分かります。
そこで肝要になるのが日頃からの備えでしょう。記事によると、愛知県で、西は浜名湖から東は天竜川までの太平洋沿岸部17.5㎞に高さ13メートルの巨大防波堤の建設が急ピッチで進んでいたり、高知県が今年2月に京都大防災研究所と独自の防災協定を結んだりと、東日本大震災を機に各地域で意識が高まってきています。
しかし、いくら巨大な設備をつくり、防災計画を緻密に練り上げても、いざ「その時」にはうまく対応できないのではないかという不安は拭えません。高嶋哲夫氏が書いた「TSUNAMI」を読んだことがあります。市職員は津波ハザードマップを作成し、原子力発電所の職員は原発が「安全」なことを市民に呼びかけ、副総理は被害に備えて非常事態宣言を発令します。登場するそれぞれが、自らに託された活動に尽力しますが、想像を超えた東海・東南海・南海地震の猛威に圧倒され、混乱し、八方塞がりになってしまいます。この小説を読んだ時、いつ・どこで・どのように襲ってくるか分からない地震を前に我々は何もできないのかと深く考えさせられました。
とはいえ、卑屈や捨て鉢になっていては元も子もありません。記事は「国は『予知』にやっと見切りをつけたが、減災対策は国など『公助』だけでは限界がある。自治体や企業、そして市民が議論し、備えの見直しを加速させることが不可欠だ」と指摘しています。防災グッズや備蓄品の確保、住んでいる町の避難所の確認といった自分でできる備えを主体的に常日頃から行うことが大切です。ちなみに私の住む足立区では、防災マニュアルが区の全住民に配られ、そして自治体を中心に定期的に避難訓練を行っております。
「天災は忘れた頃にやって来る」という言葉通り、地震は何の前触れもなくやってきます。これを機に、いつ未曽有の危機が来ても手遅れにならないよう、まずは身の回りから備えを心がけましょう。
29日付 日本経済新聞朝刊 14版 1面「揺らぐ地震対策」