保守か改革か カトリック教会の方針は

4月21日に、教皇フランシスコが逝去されました。2013年に76歳で選出されて以来、カトリック教会の最高指導者として、14億人の信者を束ねてきた人物でした。清貧を貫きながら、人権問題への関心を絶やさず、異なる宗教や信条への寛容、対話を呼びかけ、社会的マイノリティにも寄り添い続けた姿勢は、信教や国家の壁を越え深い共感を呼びました。

そんな中、映画『教皇選挙(Conclave)』の日本での全国公開が、まさにこのニュースと重なり合うタイミングだったことが話題となっています。筆者も4月29日に鑑賞しました。

映画で描かれるのは、教皇に次ぐ地位にある枢機卿たちが集まり、秘密選挙によって次期教皇を互選する「コンクラーベ」の様子です。多様な背景を持つ枢機卿たちが、ときに駆け引きを交えつつ教会の未来を決める過程が、非常にドラマチックに描かれていました。中でも印象的だったのは、教会の伝統的価値観を守ろうとする「保守派」と、現代的な価値観を採り入れようとする「改革派」との対立です。

この構図は映画の演出にとどまりません。現実のコンクラーベでも注目されている重要な争点です。生前のフランシスコ教皇は、多様性を重視する姿勢を貫き、いわば「改革派」の立場でした。そのため、後継者にも改革路線を取る人物が選ばれるのかが焦点となっています。

現在、有力視されている候補には、フランシスコ教皇と価値観を共有する人物がいます。たとえば、「アジアのフランシスコ」とも称されるフィリピン出身のルイス・アントニオ・タグレ氏(67)や、アフリカ地域で影響力を持つコンゴ民主共和国出身のフリドリン・アンボンゴ・ベスング氏(65)で、ともに多様性を重んじる姿勢を見せています。一方で、ハンガリー出身のペーテル・エルドー氏(72)は保守派とされ、近年の改革路線が教会の分断を招いたという考えから、保守回帰を期待する声も上がっています。

また、映画では言語を共にする枢機卿たちがそれぞれまとまり、信仰の一体性には出身の壁が存在していることを印象づける描写がありました。

今回のコンクラーベでは、1978年のヨハネ・パウロ一世以来となるイタリア人教皇が選出されるかどうかも注目されています。現在、投票権を持つ枢機卿135人のうち、欧州出身者は53人、その中でイタリア出身は最多の17人を占めています。これに対し、アジアは23人、アフリカは18人、南米は17人となっており、出身地域の広がりが合意形成を難しくしているとの見方もあります。
20世紀以降のコンクラーベで選出までにかかった期間は、最短で2日で最長で5日です。選出に時間がかかればかかるほど、教会の統一性が疑問視され、威信にも関わるといわれています。

世界に多くの信者を持つカトリック教会。新教皇が示す方向性が世界中に大きな影響を及ぼすことは間違いありません。前回のコンクラーベから12年が経ち、社会情勢は大きく変化しました。では、カトリック教会内の内部における価値観は、変わったのでしょうか。

 

4月29日付 朝日新聞朝刊 3面(総合3)「次の教皇決める選挙来月7日から バチカン、135人の枢機卿から互選 有料候補ずらり改革路線の継承焦点」

4月29日付 東京新聞朝刊 4面(国際・総合)「コンクラーベ来月7日開始 ローマ教皇庁」

映画『教皇選挙』公式サイト
https://cclv-movie.jp/

【ビジュアル解説】コンクラーベ 教皇選挙とは|朝日新聞(最終閲覧:2025年5月2日)
https://www.asahi.com/special/visual/conclave/

ローマ教皇、葬儀に透けた清貧の心情・弱者へのまなざし|日本経済新聞(最終閲覧:2025年5月2日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR261KH0W5A420C2000000/