何気なく使っている言葉を調べ直してみると、思わぬ発見があります。例えば「パクリ」という言葉。語源は“ぱくり”と口を開ける様子から来ており、剽窃や盗用を指す俗語として使われています。1925年の『現代用語辞典』には「かっぱらひのこと」と記されています。すでに100年前から、盗みの意味で使われていたようです。
では、パクリ、オマージュ、パロディの違いは?・・・と調べ始めたらキリがありませんでした。
というのも今朝、日本経済新聞に掲載された芥川賞作家・高瀬隼子さんの記事「盗みの告白」を読んだのがきっかけで、言葉の意味を調べてみました。内容は実際に読んでいただきたいのでここでは触れませんが、なかでも強く心に響いたのが最後の一文です。
集団でうまくやっていくための笑顔も身のこなし方も、服装もメイクもしゃべり方すら、わたしは誰かの真似をして身に着けてきたけれど、決定的ななにかを、誰からも盗まないで、どうにか生きていきたい。
このエッセイを読んだときに思い出したのが画像生成AIのことです。今年の3月末、ChatGPTに高性能な画像生成機能が加わり、写真や簡単な指示文だけでスタジオジブリ風のイラストを作ることができるようになりました。SNSでは有名人を含む多くの人がジブリ風イラストを投稿し、筆者の友人にも自分の写真を加工して楽しんでる人がいました。
今回、実際に試してみました。以下はChatGPTに出した指示文と、生成された画像です。
よく見ると若干の違和感はあるものの、一見気づかないほど自然に仕上がっています。以前は指の数、文字の崩れといった典型的なミスが指摘されていましたが、今ではかなり克服されてきているように感じます。つい先日もSNSで「AIトレス」(AIで出力したイラストをトレースすること)が物議を醸していました。こうした議論を見ると、絵を専門的に勉強したり、描くことに慣れていないと、不自然さを指摘することは難しいのではないかと感じました。
一応修正の指示を出してみましたが、あまり反映されていない上にバランスが崩れてしまい、初期のものよりも完成度が下がった印象でした。
こうした画像生成AIの問題については国会答弁でも取り上げられ、文科省により作風やアイデアの類似だけでは著作権侵害に当たらないと見解が示されました。つまり、雰囲気やスタイルを模倣した「○○風」ならば、原則として著作権の侵害には該当しないと言います。
しかし、人が時間と経験を積み重ねて学ぶのに対し、AIは一瞬で作品を学習します。そして、クリエイターが時間をかけて描いた絵が知らないうちにAIの学習材料として使われ模倣された結果、「それっぽいもの」が簡単に量産されてしまうのです。そんな状況に、表現者としての尊厳が脅かされていると感じている人も多いのではないでしょうか。AIは使い方によって作業効率が格段に高まりますが、だからこそ私たち一人ひとりが向き合い方を考える必要があるのだと思います。法的な整備が追いついていない今、どう扱うべきかという問題がますます重要になるでしょう。
「盗み」と「学び」の境界は、ときに曖昧です。ただ、自分なりの視点や表現を積み重ねていくことは、どれだけ技術が進化してもAIには真似できない人間の営みなのかもしれません。AIが生成するものはあくまで過去のデータに基づくものであり、その点において人間にしかできないことがあると感じています。
大学生活も終盤に差しかかり、自分の中で少しずつ形になってきた「決定的ななにか」。それをこれからも模索し続けながら、大切に生きていきたいと思います。
参考記事:
20日付 日本経済新聞朝刊 28面 「盗みの告白」
日本経済新聞電子版 「AI製のジブリ風画像が世界で流行、『作風』保護の議論再燃 」
日本経済新聞電子版「卒アルから性的動画 ディープフェイク『全員標的』に」
朝日新聞デジタル「『ジブリ風にして』→瞬時に画像作成 チャットGPT新機能、著作権リスク」
16日付 読売新聞 28面(社会)「AIでわいせつ画像生成 警視庁 販売疑い、4人逮捕 」
参考資料:
日本国語大辞典「ぱくり」