駅でよくみられる電光掲示板の外国語表示。韓国語や中国語も加わり、日本語が読めない外国人にとっては大変ありがたい存在でしょう。しかし最近、ネット上ではこの外国語表示が「日本人が利用しづらい」などの理由から、「うっとうしい」「日本語と英語だけでいい」と非難する声が上がっています。
このような外国人を排除する態度は、日本に限った現象ではありません。韓国でもSNSを中心に中国人留学生に対する非難や中国によるスパイ行為などの陰謀論が広まっています。筆者は韓国のネットニュースも毎日読んでいますが、ここ数年、コメント欄では外国に対する批判的な主張が目立つようになってきたと感じます。世界的に寛容な心が薄れつつあるのではないでしょうか。
では、なぜ外国人に反感を持つような声が上がるのでしょうか。大阪公立大の明戸隆浩准教授(社会学)は朝日新聞の取材に、排除主義の背景にあるのは「将来不安」であり、「日本や世界の先行きへの不安が高まるなかで、社会的に立場の弱いマイノリティーがはけ口になりやすい」と述べていました。物価の上昇、高い税金、年金制度への不安などが将来への不安を生んでいると考えられます。
さらに、排外主義が社会全体に広がる要因のひとつに、SNSの影響もあるでしょう。ジャーナリストの津田大介氏は「いままで埋もれていた個人の声がSNSで一気に広まるようになった」と指摘しています。個人の声が社会に届くようになり、#MeToo運動のような建設的な例がある一方で、ファクトチェックがなされないまま歪んだ情報が拡散されるケースも少なくありません。
電通総研の調査によれば、得た情報の真偽を確認する「ファクトチェック」について47%が「行ったことはない」と答えました。こうした状況では、極端な主張であっても共感を得やすくなり、排除的な思想が広がりやすくなるのです。
SNS上では、外国人からの被害ばかりを強調し、排外的な印象が拡散されています。SNSは取り込む情報が限定される「フィルターバブル」や人々の注目を集めることが主眼となる「アテンションエコノミー」の影響から、偏りやすい傾向があります。だからこそ、信頼性の高いマスメディアからの情報リテラシーは今後ますます求められるでしょう。インターネット上にある情報をそのまま信じるのではなく、複数の信頼できるメディアから情報を得て、その真偽を見極める力が大切です。
現実を見ましょう。日本を訪れる外国人は本当に害を及ぼしているのでしょうか。日本は現在、人手不足に直面しています。人員が「過剰」から「不足」を引いた雇用人員判断指数(DI)は、全規模・全産業でマイナス37となっており、深刻な人手不足は明らかです。倒産も増加しており、その原因に人手不足を挙げる企業が増えています。人手不足の解消のためには、今後外国人労働者の雇用がますます重要になるでしょう。
観光庁の「令和6年版 観光白書」によれば、「訪日外国人旅行者による消費額の推移」は2023年で5兆3,065億円と過去最高を記録しました。観光業の裾野は年々拡大しており、今後日本の経済にとって重要な柱となっていくと考えられます。
このように、人手不足の解消や財源確保の観点からも、外国人の雇用や観光に関する施策は今後ますます重要になるでしょう。グローバル化する今日では、偏見や排除ではなく、理解や共生の道を選び取る必要があると考えます。
参考記事:
・4月3日付 朝日新聞 22面「駅の多言語表示 利用しづらい?」
・4月3日付 朝日新聞 25面「ネット誤情報「不安」半数」
・4月5日付 朝日新聞 2面「韓国 分断 先鋭化」
・4月6日付 朝日新聞 7面「ネットに浮かぶ小さな声を拾う みんなで語る言論の広場に」
・4月8日付 日経電子版 「倒産11年ぶり1万件、「人手不足」理由過去最多 24年度」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB013XJ0R00C25A4000000/
参考資料:
・観光庁「令和6年版 観光白書」https://www.mlit.go.jp/statistics/content/001748858.pdf