日頃の防災対策と寒冷地特有のリスクを考える

災害は予期せぬときに訪れるものです。料理で火を使っている最中かもしれませんし、外出時や就寝中かもしれません。

日頃の備えが肝要であることは全国共通でしょうが、冬季に積雪で地面が覆われ、気温も氷点下となる雪国では、他の地域にはない障壁があります。雪や寒さも平時であれば貴重な観光資源でしょうが、災害時ともなると私たちの避難を妨害する厄介な代物です。

筆者は先日、防災について改めて考えさせられる出来事を経験しました。

 

◯鳴り響く火災報知器

先月下旬のある日、筆者の住むマンションで突然、ベルの音がけたたましく鳴り響きました。早朝5時の出来事で頭も回っていませんでしたから、状況を把握するのに少し時間がかかりましたが、火災報知器の音だと分かると避難するために急いで下の階に向かいました。

幸いなことに機器の誤作動だったようですが、災害への日頃の備えの大切さと雪国ならではの避難の難しさを改めて痛感した出来事となりました。

 

◯日頃の備えの大切さ

まず感じたことは、就寝中などの無防備な状態での咄嗟の判断の難しさです。通常よりも判断が遅れてしまい、逃げ遅れる可能性が高まる恐れがあります。判断にかかる時間を少しでも短縮するためにも、平時から被災時の避難行動を想定しておく必要があると改めて痛感しました。

また、スムーズに避難できるよう、家の中の不要なものを片づけることも大切だと感じました。筆者は玄関に読み終えた新聞を束ねて置いているのですが、地震などで崩れてしまうと移動中に怪我をする恐れもあるので、ゴミ出しの頻度を上げなければならないなと反省しています。

 

◯北国特有の障壁

また、雪と寒さという寒冷地特有のリスクの存在も実感しました。もしも本当に火災が起こっていたとしたら、筆者は氷点下の寒空の下、踏み固められた凍結路面の上に放り出されていたことでしょう。

2つの障壁の存在は、地震が起きた際には、人命を左右しかねない深刻な影響を与える可能性があります。

北日本の太平洋側を中心に甚大な被害をもたらすとされる日本海溝・千島海溝地震が起きた場合、道の推計によると道内の死者は最大で約14万9千人(日本海溝モデル、冬季の夕方に発生した場合)に上るとされています。大半が津波による死者であり、いかに迅速に避難できるかが被害を抑える鍵となります。

ただ、冬季には積雪や凍結路面が避難の大きな妨げとなります。早期避難率が高いケースであっても、冬の夕方に発生した場合の死者数は約4万1千人(日本海溝モデル)に上ると推計され、夏の昼に発生した場合の4倍以上になります。

津波から逃れた後の防寒対策も課題です。政府の推計によると、千島海溝モデルの場合は約2万2千人、日本海溝モデルでは約4万4千人で低体温症の対処が求められると見込まれています。

こうした問題に備えるため、自治体では冬季の避難訓練の実施や津波避難タワーの寒冷地向けの対応が進められています。

凍結した路面の様子(2023年12月筆者撮影)

雪に覆われた歩道(2023年1月筆者撮影)

 

いつ、どこで起こるか予想が困難な災害。

そんな時に自分の命を守るためにも、日頃の備えを怠らないことはもちろん、地域特有のリスクを把握して備えることが不可欠です。

 

参考記事:

2024年2月9日付 読売新聞朝刊22面(道社B)「厳冬期の避難訓練 歩きにくさ再確認 釧路市、大津波想定=北海道」

日経電子版「日本海溝・千島海溝地震で防災計画 108の強化地域指定」(2022年9月30日)

日経電子版「冬場の寒冷地、どう避難? 日本海溝・千島海溝地震」(2022年9月30日)

2022年7月29日付 北海道新聞朝刊(全道)1面「日本・千島海溝地震 道内死者最大14万9000人 早期避難 9割減災も 道推計 市町最多 釧路8万4000人」

 

参考資料:

内閣府(防災担当)「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について」

北海道「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について 令和4年」