児童養護施設を退所した若者たちに求められるものとは

こども家庭庁の報告によると、令和4年度時点で全国には610ヶ所の児童養護施設があります。それぞれ定員が設けられており、総定員数は30,140人。そして現時点での入居者は23,008人となっています。また、職員数は20,639人です。

児童養護施設の対象は、「保護者のいない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童(特に必要な場合は、乳児を含む)」とされており、原則として1歳から18歳までが入所しています。

児童養護施設などによる社会的養護の目的は、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を公的責任で保護し、養い育てることのほか、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。 社会的養護は、『こどもの最善の利益のために』と『社会全体でこどもを育む』の2点を理念としています。

こうした施策の充実により、児童が健全に育つことのできる環境が整えられると共に、環境の選択肢を増やすことが可能となっています。そこで、今回の記事では児童養護施設に焦点を当て、退所後の児童が抱える問題と求められる支援について考えていきたいと思います。

まずは、退所後の進路についてです。東京都福祉局の調査によると、入所している児童のうち、高校卒業後に就職する割合は7割以上となっています。しかし、厚生労働省によると、退所後に就職した者のうち、約半数が1年以内での転職又は退職を経験していることがわかりました。施設を離れたことで、孤立感を深めた場合や人間関係に悩みを抱える場合など、様々な要因により仕事を手放す者が多くなっています。

退所後には自分の力で生きていく必要があるため、生活費や家賃、教育費の負担が強いられます。また、進学する場合は、奨学金の返済が将来的な経済的負担となります。施設に入所していた若者には、支援や保護をしてくれる人がいない場合も多く、家賃の支払いが難しく、住む場所を失ってしまったり、厳しい生活を強いられたりと困難に直面する例が少なくありません。

すでに述べた通り、短期間での転職や退職を経験する人が多く、一度就職をしたとしても、安定して生活費を確保できるとは限りません。一部の自治体では、生活費補助や進学支援金を提供していますが、全国的にはまだ十分ではありません。

また、同調査によると、退所後の心配事として、経済的な問題だけではなく人間関係にも不安を抱える者が多くいることがわかりました。相談相手の約半数が施設の職員となっており、退所した後も職員などによる支援が必要になっていることがわかります。奨学金や給付金による経済面での生活支援のほかに、日常生活の困り事を相談できる環境作りなど、継続的に幅広いアフターケアを行うことが重要となっています。

社会的養護を経て自立する若者への支援を充実させるためには、経済的支援の充実と地域と連携した居場所の確保が求められると筆者は考えます。

経済的支援では無利子の奨学金制度や給付型の教育支援金の拡充、また就労支援をより充実させることなどが挙げられます。退所後の数年間を国が支援することで、若者が自立する基盤を整えることができるのではないでしょうか。実現には、財源や平等性などさまざまな課題がありますが、1人でも多くの若者の支援の手が届くことを願っています。

また、孤立感を解消するためには、京都市でも取り組まれている交流事業による居場所の確保や、支援コーディネーターによる悩みや不安の相談窓口、生活・居住費の援助などが非常に有効であると感じました。公的機関だけではなく、地域や企業と連携してサービスを展開していくことで、施設を退所した後のアフターケアが充実し、自立を支援していくことが可能となります。

支援の結果や効果は人生という長期的な期間を観察してようやく判定できるものです。このため、支援のゴール設定は短期的ではなく、長期的な成長を見据えて行われる必要があります。施設にいる間ではなく、施設を離れてからが最も重要な時期であり、多くの支援が求められていると考えます。

参考記事
朝日新聞デジタル 2024年1月23日付 児童養護施設などを出た若者の全国交流会 「人生変わるきっかけに」

朝日新聞デジタル 2023年9月27日付 児童養護施設出身のNPO理事長が語る 若者の自立と「その後」

朝日新聞デジタル 2023年(こどもの居場所どこに?)施設を巣立っても、孤立させない

参考文献
・厚生労働省 子ども家庭局 家庭福祉課 「社会的養護経験者の自立支援に関する取組事例集」 

・京都市情報館 「児童養護施設等退所者への支援を充実します!!~児童養護施設等退所者向け生活ハンドブック「船出のためのナビ」の作成等について~」 

・厚生労働省 「第6回〜第8回専門委員会 事務局提出資料」 

・東京都福祉局 「退所前・退所後に困ったことの調査」

・arigatobank 「データで見る児童養護施設退所者の今」 

編集部ブログ