韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が3日夜に宣言し、そのわずか6時間後の4日未明に解除を迫られた「非常戒厳」発動をめぐり、韓国政界では混乱が続いています。徐々に全貌が明らかになってきた「上からのクーデター」。韓国政治の混乱について、時系列に沿ってまとめていきます。
◾︎求心力が低下した尹政権(4月~12月3日)
2022年の発足以降、尹政権の支持率は20%前後に低迷しています。今年4月に行われた総選挙では、議席の過半数を野党が占め、国政運営がままならない状況に追い込まれました。
加えて、進歩系最大野党・共に民主党などを中心に、弾劾の動きも続きます。政府高官や検事ら政権を支える官僚らに対する弾劾訴追案が22件も発議されました。
◾︎44年ぶりに発布された戒厳令(3日 午後10時)
尹大統領は緊急のテレビ演説で、野党から「自由憲政秩序を守るため」として「非常戒厳」を出しました。1980年の民主化運動のとき以来44年ぶりとなります。
韓国憲法第77条は、大統領が「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」に戒厳を宣布することができる、と定めています。また戒厳令が宣布された際は、法律が定めるところにより、言論・出版・集会・結社の自由などに関する特別な措置をとることができるとしています。
今回、戒厳司令官が布告した「戒厳司令部布告令(第1号)」には、以下のような措置が示されています。
・議会や政党など一切の政党活動の禁止
・報道機関の活動制限
・すべての報道と出版の統制
違反者に対しては令状なしに逮捕、拘禁、捜索差押えができ、処罰するとしました。
◾︎与野党議員と国民による反発(4日 午前1時)
これに対し、共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は、国会に集まるよう所属議員に呼びかけました。憲法の規定によると、国会在籍議員の過半数の賛成で戒厳解除を要求した場合には、大統領はこれを解除しなければなりません。
戒厳が発布された直後から、国会議事堂前は警察車両で塞がれ、盾を持った警察官が並び、市民と揉み合いになっていました。野党議員らが続々と集まった後、戒厳軍が国会議事堂本館の入り口前に到着し、侵入を阻止しようとする議員の秘書や市民らと揉み合いになり、怒号が飛びました。
最終的に国会(定数300)の議場には与野党190人の議員が集まり、全員の賛成で解除要求決議案を可決しました。
◾︎戒厳令の解除(4日 午前4時)
尹大統領は国会決議に応じて、宣言から約6時間で「非常戒厳」を解き、投入していた軍を撤収させました。韓国軍合同参謀本部は、戒厳に出動した兵力が元の所属部署に復帰した、と明らかにしました。
その後、政権内には混乱が広がり、大統領府で政策運営を担う室長らが一斉に辞意を表明しました。
◾︎尹大統領の弾劾を求める動き(4日 午後)
戒厳令を機に、尹大統領に対する疑念や反発は急激な広がりを見せています。国会前で開かれた尹大統領の退陣を求める集会には、野党議員や市民ら約5千人(主催者発表)が集まりました。
明らかな憲法違反があったとして野党6党は、尹大統領の弾劾訴追案を国会に提出しました。国会で可決され、憲法裁判所が弾劾相当との判断を下した場合、尹大統領は罷免されます。
今回の尹大統領による緊急戒厳は、正式な手続きを取らないで権力を簒奪する「クーデター」です。民主主義に逆行する行為だともいえます。
日本とは大きく異なる憲法の規定を持つ韓国ですが、隣国であるからこそ自国で似たような事態が発生したならば、と連想してしまいます。韓国政治における混乱は、日本国内にも大きな影響を及ぼします。今後の情勢に注視していかなければなりません。
参考記事:
・12月5日付 朝日新聞朝刊 1面 「非常戒厳 一夜で解除」
・12月5日付 朝日新聞朝刊 2面 「戒厳 押し切った末」
・12月5日付 朝日新聞朝刊 27面 「『人間の盾』戒厳にあらがう」
・12月4日付 朝日新聞朝刊 1面 「韓国大統領『非常戒厳』宣言」
・12月4日付 朝日新聞朝刊 9面 「韓国国会に戒厳軍」
・12月4日付 読売新聞朝刊 1面 「韓国『戒厳令』宣言」
・12月4日付 日経新聞朝刊 1面 「韓国大統領が非常戒厳」