「中国の靴メーカーが商標権をめぐって、アメリカのスポーツシューズブランド、『ニューバランス』を相手に裁判を起こしたんだけどさ。なんと、偽物の中国側が勝訴したんだよ。そんなことって、ある?」。友人に尋ねられました。そんなことが起こりうるのかと、私も驚いてしまいました。しかし驚いた後、「なぜ、そんな問題が起きたのか」冷静に考える頭が大切です。
中国と言えば、いま南シナ海問題で揺れています。オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、南シナ海での主権をめぐる中国側の主張を全面的に退けた判決をめぐり、中国政府は同裁判所の判決を「無効」と批判するキャンペーンを展開しています。13日午前、自らの立場を説明する「白書」を発表し、「中国の領土だという基本的事実を変えることはできない」と声高に宣言しました。外務省の劉振民次官は「仲裁裁判所が合法的な国際法廷ではないことを説明したい」と述べ、裁判官の5人のうち4人が「欧州出身者だ」と指摘しました。
批判の矛先は日本にも向けられます。劉氏は、5人の裁判官のうちフィリピンが指名した1人を除く4人は「すべて日本人の国際海洋法裁判所の柳井俊二所長(当時)が指名した」と述べました。
中国国内でも反発が強まっています。中国版ツイッター「微博」では「中国の領土は一点たりとも譲るな」などの発言が目立ち、政府の対応を批判する声も上がっています。一方、フィリピン国内では、「CHexit(チェグジット)」という新語が広がり始めました。「CHINA(中国)」と「exit(出る)」を組み合わせた造語で、「中国は南シナ海から出て行け」という意味で使われているようです。インターネット上には「我々の勝利」と判決を歓迎する声が上がっています。
キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏は、「問題が解決しないという前提で接触を図り、不必要な衝突や、誤解に基づくような戦争を回避するため、どのようにして信頼醸成を進めるかが重要だ」と話します。
冒頭の中国の靴メーカーは、米国「ニューバランス」よりも早い時期から商品名として中国名の「ニューバランス」にあたる「新百倫」を使用しており、消費者などに誤認も生じさせる恐れはなく、権利侵害には当たらないと主張し、勝訴したようです。判決は、中国地裁が下しました。こうした問題は「お金」で解決できるかもしれません が、領土問題はそうもいきません。「最悪の事態」を避けるため、これ以上問題を緊迫化させない努力が各国政府に求められています。私たちも感情に流されてしまうのではなく、「冷静に問題を捉える姿勢」を持つことが必要でしょう。
参考記事:
14日付 「中国南シナ海問題」 各紙関連面
参考資料:
7月6日付 織研新聞plus
http://www.senken.co.jp/column/metemimi/rain0706/ (14日閲覧)