セブン、加クシュタールから買収提案 日本とは異なるコンビニの役割とは

先月19日、セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニ大手であるアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けたことが明らかになりました。クシュタールはかつて日本にも展開していたサークルK、ガソリンスタンドの貝殻マークで知られたシェルの親会社でもあります。現時点でクシュタールからの提案内容は明らかになっていませんが、同社は「両社の顧客、従業員、フランチャイズ店、株主に利益をもたらす相互に同意できる取引に達すること」にフォーカスしていると述べています。

それに対して、セブン&アイ・ホールディングスは「買収提案価格は不十分」などとする書簡を6日にも送ることを決めました。

今回買収を発表した会社のあるカナダに留学をしている筆者ですが、クシュタールは聞き覚えのない名前でした。それもそのはず、ケベック州に本社を置き、カナダ国内では同州を中心に展開されているからです。筆者の暮らすバンクーバーには子会社のサークルKが数店あるものの、クシュタールは見かけません。街中には世界に約8万5千店も店舗を置くセブンイレブンが建ち並んでいます。バンクーバーで主要のコンビニと言えばセブンイレブンになります。

しかし、日本とカナダのセブンイレブンは全く異なった用途で利用されていると感じます。

まず、店の役割が違います。日本では日常生活に必要なものが簡単に手に入る場所として利用されています。一方、カナダではガソリンスタンドと併設している店舗が多く、ドライブの休憩時に立ち寄る場所となっています。日本のような徒歩でサッと行けるような近場に数店舗もあるのと比べると、店の数は断然少ないのです。

ノースバンクーバーのロンズデール通り沿いにあるガソリンが併設されたセブンイレブン=2024年8月29日、松本花音撮影

 品揃えも非常に異なります。カナダのコンビニにはお酒もお惣菜も衣類も売っていません。お酒はリカーストアと呼ばれる酒屋でしか手に入らないですし、サンドイッチやホットドック、そしてチキンなどのようなホットフードが並んでいる程度です。多くのレストランでテイクアウトが充実しているので、それを利用する人が多いようです。

一方で、ガソリンスタンドに併設していることもあってか、エンジンオイルが売っています。また、運転中の日差しを防ぐためのサングラスも多数揃えてありました。

エンジンオイルが陳列された棚=2024年8月29日、松本花音撮影

 加えて、飲み物の品揃えも充実しています。日本で手に入るような温かいペット飲料は売られていませんが、お酒が販売されていないのにもかかわらず、9個も冷蔵庫が使われています。眠気覚ましになるエナジードリンクの品揃えが充実しており、日本には多くて5種しか売られていないエナジードリンク「モンスター」が20種類ほどもあり驚きました。

セブンイレブンの店内に並ぶエナジードリンク「モンスター」=2024年8月29日、松本花音撮影

 では、クシュタールの子会社であるサークルKにはセブンイレブンと違いがあるのでしょうか。

まず異なるのは、セブンイレブンはガソリンスタンドが併設している店舗が多い一方で、バンクーバー内にあるサークルKはどれもコンビニとしての店舗しかありませんでした。また、店内で作られた温かいハンバーガーとピザが売ってあり、とても斬新だと思いました。

バンクーバーのダウンタウンにあるサークルK=2024年9月9日、松本花音撮影

  一方で、それ以外の品揃えはバンクーバーにあるセブンイレブンとほとんど変わりはありませんでした。

日本とカナダでは求められているニーズが異なるようです。米紙ワシントンポストでは、2011年に起きた東日本大震災の時に、コンビニは政府よりも早く地域の要望に答えたと紹介されています。

同紙によると、クシュタールが買収した際に「日本風」のコンビニ文化が失われるかもしれないと心配する声も上がっています。一方で、日本が作り上げた日本モデルを世界に輸出できるチャンスになるかもしれないという前向きの声も上がっていると言います。

コンビニ事業は好調なセブン&アイ・ホールディングスですが、百貨店や総合スーパーは不振でした。この買収提案がどのような影響を今後及ぼしていくのか追跡していきたいものです。また、カナダにあるコンビニに何か変化が起きるのかも楽しみです。

 

参考記事:

・9月7日付、朝日新聞デジタル、「セブン&アイ、買収案に「NO」 カナダコンビニ大手に返答」

・8月28日付、朝日新聞デジタル、「ヨーカ堂、関東などで5店を閉店へ 閉店予定の33店が全て明らかに」

・8月21日付、朝日新聞デジタル、「米でのコンビニ事業、狙いか カナダ大手、セブン&アイに買収提案 成立ならシェア13%」

・2015年3月18日付、日本経済新聞、「英蘭シェル、デンマークの小売事業をカナダ流通大手に売却」

・8月28日付、The Washington Post、「Can Japan’s love for 7-Eleven survive a Canadian takeover?」

・8月19日付、BBC、「Canadian retail giant makes £29.2bn bid for 7-Eleven」

・8月25日付、日刊SPA!、「セブンイレブンにカナダ企業が5兆円の買収提案。日本のコンビニ業界「客足増でも売上が伸びない」理由」

 

参考文献:

・Couche-Tard Corop、「Where We Operate」(2024年9月6日取得)