今月1日、ドイツ東部の州議会選で、移民排斥などを訴える右翼政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が2013年の結党以来初めて州レベルで第1党になりました。現在、欧州では「反移民」的な立場の右派が、グローバル化に取り残され生活苦に陥る人々の心をつかみ、その影響力を強めています。その一方で、欧州を目指して地中海そして大西洋で命を落とす人々が後を絶ちません。
2015年以降、リビア・チュニジアからイタリアを目指して地中海を渡る移民が増加し、欧州は難民危機に直面しました。しかし、地中海の中央ルートが警備の強化で厳しくなると、ベラルーシからポーランド、大陸を超えて南米から米国へ向かう移民も現れました。
昨今では、大西洋を北上してスペイン領カナリア諸島に上陸する移民が激増しています。2023年には、その数は4万近くにまで上り、過去最多でした。国際移住機関(IOM)は7月24日、西アフリカ・モーリタニアで300人を乗せた船が転覆し、15人が死亡したと発表しました。モーリタニアの沿岸警備隊が120人を救助したものの、150人以上が行方不明だといいます。ビーチリゾートとして人々を魅了する美しい海岸。しかし、その向こうで、数百、数千という単位の人々が、欧州にたどり着くことなく命を落としているのです。
ペニスコラから望むバレアレス海(5月15日筆者撮影)
難民申請は最初の到着国が手続きの責任を負うとする「ダブリン条約」が発効されたことで、ギリシャやイタリアなどの沿岸国に負担が集中しました。そのため、地中海の沿岸国は強硬な対応をとり、国境を警備しているのです。ドイツやフランスなどの実質的な受け入れ国では、移民統合に苦慮しています。また英国は、難民申請者を第三国である東アフリカ・ルワンダへ移送することを決めました。今や、難民受け入れは外交における重要な切り札となっています。
英国に向かう移民たち=朝日新聞より引用
留学していたスペインは、地中海の西ルートの目的地であり、移民受け入れは重要な課題でした。スペインは地中海沿岸にある上に、アフリカ大陸に飛び地を、大西洋に群島を領有しています。さらに、ラテンアメリカ諸国出身者には優遇制度を設けており、そこから多くの移民が流入しました。今では、欧州でドイツに次いで2番目に多くの移民を受け入れています。
そのため、移民局は深刻な人手不足に陥っています。申請するにはウェブでの予約が必須ですが、常に空きがなく、自力で予約するのはほぼ不可能です。ただ予約するためだけに仲介業者に数万円支払うことも珍しくありません。また、移民が外国で取得した学位は、スペインでは認められないことが多く、職業選択の幅が狭められています。労働環境も決して良いものではありません。残業代が支払われなかったり、雇用期間が繁忙期の数週間、数か月のみと定められていたりします。その一方で、身を守るために母国を離れ、スペインに渡った難民に対する迅速な対応は評価に値します。ギャングの勧誘を断り、脅迫を受けたコロンビア出身の友人は、「タルヘタ・ロハ」という国際的保護のための在留資格を受けました。就労や居住は許可され、社会保障を受けることもできます。また後に、永住許可やスペイン国籍を得ることも可能なのです。
スペインの出生率は日本を下回るほど低く、年金制度の維持のためには移民が必要不可欠です。今欧州では、増加する移民への不満が政府に向かい、移民排斥を主張する右派がその力を強めています。
EU内で移民受け入れの負担を分けることで、海を渡る難民や移民を人道的に支援し、自立を促す必要があります。また、地中海や大西洋を渡ろうとして遭難した移民を救助する非政府組織(NGO)と連携することで、より多くの命を守らなければなりません。一部の国々に重い負担がのしかかれば、市民の間で「反移民」的な主張が拡大する恐れがあります。国境を超える人々は政治の道具ではなく一人の人間だということを再認識し、EU内における移民受け入れや難民支援の役割分担を議論するべきでしょう。
参考文献:
移民・難民たちの新世界地図―ウクライナ発「地殻変動」一〇〇〇日の記録― (村山祐介著、2024年、新潮社)
参考記事:
3日付 独州議会選、右翼が第1党 AfD躍進、結党以来初:朝日新聞デジタル (asahi.com)
7月5日付 西アフリカ沖で移民乗せた船が転覆 約90人が死亡、数十人不明:朝日新聞デジタル (asahi.com)
5月17日付 難民申請者は「転送」できるか 英国の新対策の「現実路線」と危うさ:朝日新聞デジタル (asahi.com)
2023年6月26日付 地中海で移民船の事故増 取り締まり強化で危険ルートへ – 日本経済新聞 (nikkei.com)