【トランプ氏暗殺未遂事件】隣国・カナダはどう報じる〜大統領選への影響は〜

今月13日に米ペンシルベニア州で演説中のトランプ前大統領が銃撃されたことは衝撃的なニュースでした。

20歳の容疑者はトランプ氏の演説会場から120〜150メートルほど離れた建物の屋根から銃撃を加えました。トランプ氏は右耳を負傷したものの命に別状はありませんでした。容疑者は射殺され、集会に参加した1名が死亡、2名が負傷しました。容疑者の動機は未だ解明していません。

この事件を耳にした時、多くの日本人は2022年7月8日の安倍晋三元首相が演説中に銃撃された事件を思い出したのではないでしょうか。銃社会のアメリカでさえも今回の銃撃事件には驚愕しています。

筆者が今住んでいる隣国カナダは今回のトランプ氏銃撃事件をどう報じ、大統領選についてどう伝えているのでしょうか。

 まず、日本のメディアも報じているように、1枚の写真が話題になりました。銃撃された直後に耳から出血をし、顔面には流れ出た血が線を描くなかで拳を掲げるトランプ氏の写真です。この写真はトランプ氏の支持者にとって「絶対に屈しないリーダー」として崇められています。     =17日付、朝日新聞デジタル、「銃撃後に拳上げたトランプ氏の写真、世界で配信 党大会でも話題に」

 米メディアCNNによると、この写真は即座に支持者によってグッズ化されました。また、加メディア・トロントスターによると、右耳にガーゼを纏ったトランプ氏の真似をする支持者も出てきていると言います。とても奇妙な行動に思えてしまいます。

また、トランプ氏銃撃事件を経て、副大統領候補の候補者である共和党のヴァンス上院議員とスコット上院議員がした発言が問題になっています。そこでは今回の事件は極左派やメディア、そしてバイデン陣営が扇動したものだという主張がされていました。しかしながら、現在まだ十分な証拠は見つかっていません。Voxの特派員であるザック氏はCBCで、「不十分な情報の中で事実か明らかではない発言であり、最も無責任な方法で大胆な主張だ」と批判します。

今回の銃撃事件について、安倍氏が銃撃された時と同様に警備態勢の見直しがアメリカでは始まっています。トランプ氏は現職の大統領ではないため、会場内は警備されていたものの、会場外の警備が怠っていたことが問題視されています。取材を受けた人によると、「屋根の上にライフルを持った男がいると叫んでいたが、警察は地面を走り回っていました」と警備の甘さを語りました。今回の銃撃事件によって模倣犯が出る心配もあります。迫りつつある大統領選挙に向けてより一層の警備が求められます。

カナダでもトランプ氏銃撃事件を受けてカナダの国家警察であるRCMPとカナダの国家安全保障機関CSISが警戒を強化しています。政府から具体的な安全対策については語られていませんが、新民主党・NDPのジャグミート・シン党首は「最近の政治の中で、議論を煽って暴力にまで至らせる傾向が強まっていることを懸念している」とCTVニュースに語りました。また、加トルドー首相は、政治的暴力は許されないと強調し、犠牲者への追悼の意を表しました。

米国では現職の米大統領のうち4人が暗殺されています。エイブラハム・リンカーン、ジェームズ・ガーフィールド、ウィリアム・マッキンリー、ジョン・F・ケネディの各氏です。1980年代の米国を率いたロナルド・レーガン氏は奇跡的に回復し、任期を全うしましたが、危ういところでした。米大統領選での候補者への銃撃事件は発生しています。日本でも現職で原敬首相や犬養毅首相が暗殺されています。

一方で、カナダではこれまで首相が暗殺されたことはなく、政治的暴力も比較的稀です。ですが、近年の政治家をめぐる安全は著しく悪化しています。2012年にはケベック州首相に就任したポーリーヌ・マロワ氏への暗殺未遂が起きています。元カナダ枢密院書記官のマイケル・ワーニック氏は「暴力を煽る動きが高まっていることを心配している」と語りました。近年の政治の中にある、政府などへの反逆心や他派閥に対する強烈な反発が政治的治安を悪化させるきっかけとなってしまっているのではないでしょうか。これは日本にも言えることです。

では今回の大統領選そのものはカナダでどう報道されているのでしょうか。

実は、今回が最も盛り上がりに欠けた大統領選だと報じられていました。共和党と民主党のどちらの支持者の間でも、トランプ氏とバイデン氏を選びたくないという人が少なくないようです。バイデン氏に関しては、最近年齢的衰えが指摘されています。6月に行われたテレビ討論会では何度も言葉に詰まり、認知検査を求める声も上がっています。

当地のメディアは現在のアメリカ政治に関して極度の二極化が進んでいると言います。そして、対立する立場の支持者に対する意見はますます否定的になっています。先にも述べたように、互いに対する憎悪がさらなる政治的暴力を生むのではないかと懸念しています。

今回のトランプ氏銃撃事件の大統領選への影響は共和党、民主党どちらにもあると思います。今後、両者がどのような行動に出て、どう展開していくのか。北の隣国から注目していきます。

 

参考記事:

・18日付、日本経済新聞、「銃撃容疑者、事件前にトランプ氏とバイデン氏の画像検索」

・17日付、朝日新聞デジタル、「銃撃後に拳上げたトランプ氏の写真、世界で配信 党大会でも話題に」

・15日付、朝日新聞デジタル、「(社説)トランプ氏銃撃 政治暴力の連鎖を断て」

・14日付、読売新聞デジタル、「リンカーンやケネディ…任期中に銃撃で死亡した米大統領は4人、レーガン氏は重傷から奇跡的回復」

・8日付、読売新聞オンライン、「バイデン氏、認知検査求める声に「日頃の職務が検査」と拒否…大統領選継続の障害になる可能性も」

・2022年7月8日、日本経済新聞、「戦前には現職首相暗殺、首脳狙うテロ海外でも」

・18日付、CNN、「‘Iconic’: RNC vendors jump on Trump image as best seller」

・17日付、Toronto Star、「How the assassin who tried to kill Donald Trump put Democrats on life support」

・15日付、CBC、「Trump assassination attempt: What’s next for U.S democracy?」

・15日付、CBC、「Canada reflects on its history of political violence in wake of attack on Trump」

・15日付、CTV News、「Biden says it was a ‘mistake’ to say he wanted to put a ‘bull’s-eye’ on Trump」

・15日付、CTV News、「LeBlanc briefed by RCMP, CSIS in wake of shooting at Trump rally」

・15日付、Toronto Star、「Donald Trump leaves the stage bleeding as a violent nation looks set to explode」

・3日付、AP通信、「Why was it a surprise? Biden’s debate problems leave some wondering if the press missed the story」

・2023年11月1日、NHK、「アメリカ大統領選挙の主要なスケジュール」