先月25日、長野県松本市の井上百貨店が来年3月末に閉店することが発表されました。百貨店の閉店は松本市だけではありません。近年、地域から百貨店が姿を消しつつあるのです。
今年に入ってから島根県唯一の百貨店、一畑百貨店が閉店しました。山形、徳島に続く「百貨店ゼロ県」となりました。そして、2か月ほどでもう1県増えることになります。7月末で岐阜市の「岐阜高島屋」が姿を消します。赤字が続いたことや、設備の修繕に関して建物の所有会社と合意が得られなかったことが理由だそうです。
高島屋グループ全体での2024年2月期連結決算は33年ぶりに最高益を更新し、百貨店全体の免税売り上げも4000億円台で過去最高を更新するなど、好調に見える百貨店業界。しかし、なぜ地方都市の百貨店は苦境に立たされているのでしょうか。理由の一つに中心市街地の衰退が挙げられます。
多くの店は、駅前など中心市街地に立地しています。自動車での移動が一般的になり、郊外に大型ショッピングモールなどができたことで顧客が流出したことも原因として挙げられます。閉店予定の井上百貨店も、同社が運営する郊外型ショッピングモールに百貨店機能を統合することが明らかになっています。
岐阜高島屋が位置する柳ヶ瀬商店街はJR岐阜駅から徒歩10分ほどに立地しています。繊維業界の成長と共に発展し、繊維問屋や飲食店がぎっしり建ち並び、賑わっていたそうです。ただ、繊維業界の衰退とモータリゼーションによって、みるみるうちに賑いを失い、シャッターが閉ざされたままの店舗も目立つ状態に。百貨店の閉店は、中心市街地の衰退と密接に関係していることがわかります。
岐阜の場合、顧客の流出原因の一つとして名古屋市との距離が考えられます。JR岐阜駅から電車で20分ほどしかかからず、買い物需要が名古屋に吸い上げられていることが考えられます。
同じように愛知県内でも、各地にあった百貨店が姿を消しています。2020年には、豊橋市の「ほの国百貨店」、岡崎市の「西武岡崎店」、21年には豊田市の「松坂屋豊田店」、今年に入ってからでは一宮市の「名鉄百貨店一宮店」が閉店しました。近くに名古屋のような大都市がある場合、買い物客がそちらに引き寄せられているのは確かです。
読売新聞の取材によると、ある百貨店幹部は「大都市以外は『三十貨店』や『十貨店』として続ける方法以外には、運営することが難しい」と話していたそうです。つまり、規模の縮小やターゲットの限定は避けられないことがわかります。
百貨店の閉店によって、中心市街地の衰退が加速する心配があります。地方都市から買い物や娯楽の拠点が失われると、若年層の流出に拍車がかかりかねません。高齢化が進む地方都市では今後、車が無くても買い物が楽しめる施設への需要が高まるはずです。駅に近い市街地に活気があると、観光需要の掘り起こしも期待できます。中心市街地の活性化は、地域の営みを持続可能にするための「一丁目一番地」として取り組むべき施策でしょう。GWが始まりました。混雑するであろう都市部の大型デパートだけでなく、近所の百貨店で買い物を楽しむのも充実した休暇の過ごし方になるはずです。
参考記事
33年ぶり最高益更新「収益は高くなくても面白いモノを盛り込んでいくことが永遠のテーマ」…高島屋・村田善郎社長 : 読売新聞 (yomiuri.co.jp)
2024年4月26日付
松本駅前の井上百貨店、来年3月末で営業終了 山形村の施設と統合 [長野県]:朝日新聞デジタル (asahi.com) 2024年4月25日付
百貨店免税売り上げ、4000億円台で過去最高 2023年度 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
2024年4月25日付
名鉄百貨店一宮店、55年の歴史に幕…愛知の百貨店は名古屋市内だけに : 読売新聞 (yomiuri.co.jp) 2024年2月1日付