ヘイトスピーチと表現の自由

どのような発言が「ヘイトスピーチ」になるのか、読者の皆さんはご存知ですか。日本の場合、在日コリアンに対する差別発言が連想されると思います。ただ、このぼんやりとしたイメージが、後々大変なことを招いてしまうかもしれません。

2日に、横浜地裁川崎支部が、ヘイトスピーチが予想されるデモを禁止する仮処分決定を出しました。5月24日に議員立法でヘイトスピーチの解消に向けた対策法が成立して以来、初めての司法決定です。これにより、改めてこの法律がデモの差し止めの根拠になることが示されました。ただ、一律に規制するほどの強制力はなく、被害者が個別具体的な事案についてそれぞれ裁判を起こさないといけません。

今回制定された対策法では、ヘイトスピーチについて「差別的意識を助長する目的で、危害を加えると告知したり著しく侮蔑したりするなど地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動」としています。ただ、具体的にどのような言動がこれに当たるかは、法律をどのように運用していくかで変わっていきます。数年後には法律の対象が拡大してくることも懸念されます。また、今の対策法にはない罰則規定も新たに追加されていくことも考えられます。

ネットの動画投稿サイトで時々、街頭で在日韓国・朝鮮人に対して差別的な発言をしているデモ動画がアップされているのを見かけます。このような映像を見ると、長年、言葉の暴力に苦しんできた方がおり、そのために規制をすることは、被害者の救済のためにも早急に取り組まなければならないことだったと理解できます。

一方で「表現の自由」を制約する法律が成立したときには、その運用について常に監視しておく必要があります。表現の自由は、我々に与えられた「権利」です。「政府批判」ですらも許される、権力者にとってはあまり好ましくない基本的人権というわけです。いったん、これを制限する法律が制定されると、歯止めがかからずどんどん規制法ができることもあり得るのです。今回の規定が、あくまでも「ヘイトスピーチ」で苦しんでいる人の救済のためのものであることを忘れないようにすべきです。

参考記事:

3日付 朝日新聞朝刊 東京14版1面「ヘイトデモ事前差し止め」

読売新聞朝刊 東京14版35面「ヘイトデモ禁止 仮処分」