兵庫県内の本屋で「大船渡 ハウルの船」という本を見つけました。
B5 サイズで 55 ページ、1100円(税込み)。筆者は 3 月に大学を卒業した坂田美優(24)さんです。「ハウルの船」での生活を形にしたいと思い、出版されたそうです。その時のお話を伺いました。
大阪府大東市生まれの坂田さん。小学生の頃から本を読むのが好きで、講談社の「青い鳥文庫」のシリーズを読み漁っていたそうです。祖父の延命治療を機に、ただ⾧生きすることだけが幸せなのかという疑問を持ち、2017 年に神戸大の人間科学部に入学しました。
岩手県大船渡市のゲストハウスに行くきっかけは就職活動でした。大学 3 年の夏、インターンシップに応募しましたが、落選が続いて、行きたい企業の活動には参加できませんでした。坂田さんは著書の中で「自信を失ってしまった」と振り返るとともに「『選ばれる』という立場にいることはもううんざり」と、当時の気持ちを記しています。
3 年の秋、「一人で生活する上で、食事さえできれば生きることができる」という考えから岩手県で狩猟免許を取っています。そのときに出会った猟師たちから「大船渡市に『ハウルの船』と呼ばれる黄色い壁のゲストハウスがある」と聞いたことを思い出しました。休学してこの家に住んでみたい。そう思い立った坂田さんは、家のオーナーに住ませてもらえないかお願いし、快く受け入れてもらえたそうです。オーナーの人は「若者の成⾧を見守ってくれるような方でした」
大学を休学して約 2 ヶ月間、この家に 1 人で住んでみることにしました。目標は盛岡市のアートギャラリーに、自分で書いたエッセイを出展すること。掃除や薪割り、狩猟の罠の仕掛けをする日々の日課をこなしながら、執筆に取り組みました。「ハウルの船」での生活を日記のように綴りました。完成した本は、盛岡市内のギャラリーに展示され「期間中は老若男女を問わずさまざまな人が読んでくれました」と振り返ります。一番印象に残っているのは滋賀県の友人など4人が家に来てくれた日のこと。一人暮らしのつもりで住み始めましたが、人がたくさんいると、みんなに振る舞うピザを焼いたり、薪ストーブの面倒を見てもらったりして、人とのつながりを感じたといいます。
「ハウルの船で生活したことを形に出来れば」と思い、神戸に戻ってきてから書き上げました。知り合いの出版社に頼み、約 200 部を出版。住んでいた兵庫県以外に、東京、大阪、奈良の本屋にも足を運んで、本を置いてもらえないか交渉しました。直接行けなかった徳島、福岡には手紙を送って、店頭に並べてもらえないかお願いしたといいます。
大学を卒業したばかりの坂田さんは、古着屋で働きながら執筆活動を続けています。今までに 3 冊を執筆したといいます。これからも本を書いていきたいという坂田さん。「本屋で見かけたときは是非手にとってほしいです」と話しています。