自白が武器に

カツ丼を噛み締め、被疑者がぽつりと、「すみません、私がやりました」。

そして人情派刑事の顔をアップして一言、「よく言ってくれた、その一言を待っていた」。

刑事ドラマの定番ですね。取調室では、いったいどんなこと会話が繰り広げられているのか。自白を強要していないか、刑事や検事の振る舞いをチェックするためにも取り調べ映像の可視化はあるのです。

そんな可視化が捜査側にとっても大きな「武器」になることが裏づけられました。11年前に起きた栃木県今市市の小1女児殺人事件の判決を振り返りましょう。被疑者は、いったんは殺害を認めたものの、その後に無罪主張に転じていました。物証が乏しいなかで検察の立証を支えたのは計7時間13分にわたり再生された取り調べ映像でした。判断を迫られた裁判官は、無期懲役の結論を下しました。この判決にも後押しされたのでしょうか、24日に刑事司法改革関連法案が衆院本会議で可決し成立しました。

この法律は、取り調べの録音・録画による可視化の義務化や司法取引の導入、通信傍受の対象拡大などが柱になっています。可視化を義務づけることについては、不当な取り締まりがさらに防げるので一定の評価をします。しかし、課題は残ります。録画をするのは殺人や放火など裁判員裁判の対象になる事件と、検察が独自に捜査する事件に限られているからです。あわせてもすべての刑事事件の3%程度にすぎません。いずれは全事件が対象になるようになることを望みます。

また、録音・記録は万能ではありません。さきほど挙げた判決の公判で再生された映像をみた補充裁判員の30代の会社員は「最初の自白が抜けていて、やるならやるで録音・録画は徹底してやるべき」と注文をつけています。裁判に都合のいいように映像が使われないようにしなければなりません。

ドラマにでてくる刑事が「その一言」を待ち構えるシーンを思い出します。やはり自白に頼る事実認定は心もとないのです。今回の法律で、日本の捜査や刑事裁判が変わるかもしれません。一番の目的は冤罪をなくすこと。これを忘れないで警察や検察には裏づけ捜査や取り締まりに力を入れて欲しいものです。

参考記事:

5月26日 日本経済新聞 社説 「信頼される捜査に向けた出発点にしたい」2面(東京14版)

4月9日朝日新聞「乏しい物証 迫られた判断」35面 (東京14版)

4月9日読売新聞「取り調べ映像 決め手」3面 (東京13版)